岡村 民夫
法政大学国際文化学部教授
山道 拓人
法政大学デザイン工学部建築学科准教授
建築家
表象文化(映画、アニメ、漫画、絵画、写真……)は、表象される対象を表現するとともに、表象する視点を表現します。私たちは主に近年の江戸東京に関する諸表象を研究していきます。表象が狭義の現実に対して持つズレこそが、江戸東京をめぐる現在の価値評価や、過去と未来への想像力を開示してくれることでしょう。
「近未来デザイン」は、江戸と東京の可能性を現在にハイブリッドさせたような日本独自の都市論を展開することを意味します。コロナ以降、我々は職住近接の生活様式へ移行を余儀なくされ、家の中で働くことも当たり前となりました。住む場所と働く場所が分かれる前の江戸時代に作られた暮らし方や空間的資源=コモンズの可能性を再考すべきタイミングなのではないでしょうか。
そして、表象文化と近未来デザインという異なる時間軸を持つ専門家がシンポジウムやプロジェクトを通して共同することで、新しくも過去や記憶に裏打ちされた東京の姿を描けるのではないかと考えています。
現代の表象文化に焦点を当てることによって、江戸東京をめぐる記憶、感受性、想像力などを掬い上げることが期待されます。たとえば、優れた写真家や映画監督が撮った路地の映像は、近代化や都市開発の観点からは見過ごされがちな湿り気、経年変化、迷路、公私や用途の曖昧なブランクの価値を示唆していますし、特撮SF映画やアニメや漫画は、しばしば東京の災害の記憶や、境界が帯びる無意識的なものの神話的・民俗的表現となっています。それらは、近未来の東京をデザインしていくうえで重要な参照枠となりえることでしょう。
同時に、現代の日本で今まさに実践されようとしているデザイン論や建築実践論を都市東京の近未来デザインと呼ぶならば、そこで垣間見られる人々の営みを「聖地巡礼」や「コンテンツ・ツーリズム」といった新たな表象文化として取り出すことができるでしょう。