高村 雅彦
法政大学デザイン工学部教授
小林 ふみ子
法政大学文学部教授
江戸東京が水都として発展してきたことに注目してきたこれまでの研究を前提に、この都市のあゆみをふまえてその特質をあきらかにすること、とりわけ、持続可能な未来のために、定常型社会であった近世の江戸に未来へのヒントを探ることです。
江戸東京研究センターのプロジェクト全体のなかで、歴史的な部分を担当するプロジェクトにあたりますが、歴史的事実としての都市構造のありようを解明しつつ、それを補完するかたちでこの都市がどのように経験、認識、記憶され、価値づけられてきたのかを、文学をはじめとするテキストや絵画などの視覚表象に探ります。
国内外の都市との比較も視野に入れながら、歴史的にくり返し壊滅的な打撃をこうむっては再生してきた江戸東京が、物質的な繁栄ではないところに形成してきた都市としてのアイデンティティーのあり方、そこでの暮らしや人々のつながりのありようを探ることを目的とします。
これまで本センターでは、この都市のアイデンティティーが、巨大建造物などのモニュメントではなく、地形や地名、暮らしぶりから記憶や伝承・物語、風俗・習慣までも含めたインタンジブルな(無形の)もので支えられてきたことに注目してきました。それをさらに発展させ、その内実をあきらかにしていきます。
とりわけ、水や緑といった自然をどう扱い、利用し、価値づけるかに重点をおき、そこに江戸東京独自性を見いだします。文系と理系それぞれの知見を複合的に活かす方法として、この都市での経験を記述した共通のテキストをもとに、その内容を理系の方法で都市空間に落としこんで分析するとともに、文系の視点から何にどのような価値を見いだし、どう意義づけているか、その言説がその後、どう後世に影響してきたかを探ることなどが考えられるでしょう。
長年にわたって蓄積されてきた文理双方の研究成果をふまえ、手法を活かしつつ、それらの成果を統合してみえてくる江戸東京の特質を探ります。