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世界に誇れる日本の「一体感」 経済学部経済学科 山田 快 准教授

  • 2019年04月11日
  • コラム・エッセイ
  • 教員
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一人の力は弱く、小さなものです。そこで、人間は一人で解決することが難しい課題を他の人と力を合わせることで解決し、多くの困難を乗り越えてきました。この「協力」こそ、人間が自らの進化を支えてきた知恵であり、これからも大切にすべき営みといえます。では、人と力を合わせることが必要になったとき、あなたはどのような点に注目し、どのようなことを意識するでしょうか。おそらく、その一つに「一体感」が挙げられるでしょう。一体感は、われわれ日本人が元来大切にしている、他者との関係性を考える際の基礎とされ、他者との間や集団の内につくり出される「人と人とが一つになっているような強い結び付きを表す感覚」を指します。

中でも、私はスポーツチームの一体感に興味を引かれ、研究をしています。今年開催されたサッカーワールドカップで、日本チームが躍進を遂げたことは記憶に新しいと思います。主将の長谷部誠選手をはじめ、選手やスタッフはチームの一体感が躍進を支えたと語っており、観戦していた多くの人が日本チームの一体感に感動を覚えたことでしょう。また、大会開催が間近に迫る2カ月前に起こった前監督の解任劇も話題となりました。もちろん、背景にはさまざまな事情があったとうかがえますが、ここでも一体感が取り上げられ、チーム内の一体感が欠如していたことが騒動の引き金になったと報じられています。これらのことを裏付けるように、新監督に就任した森保一氏は、今後の最も重要なチームづくりのコンセプトとして、一体感のあるチームを掲げています。
以上のように、個々の力を結集し、強大な力に変えることができる日本人の能力は、世界から注目されており、それを支える一体感は、われわれ日本人の潜在意識に宿っている、誇るべき和の心なのです。

スポーツの世界では、一体感が科学的にも重要なものであることが分かっています。スポーツ選手(アスリート)のほとんどは、いずれかのチームに所属し、活動しているため、日常的に他のメンバーと協力したり、チームの規則に従うことが求められます。そこで、アスリートはメンバーやチームからさまざまな影響を受け、その影響がアスリートとチームの心の健康、競技に対するモチベーションやパフォーマンスによい効果をもたらすことが明らかにされています。従って、スポーツの現場では、メンバー間やチーム内に一体感をつくり出すことが重要視されているのです。

ところで、最近スポーツ界の不祥事が後を絶ちません。その多くに、スポーツ指導者(コーチ)の望ましくない言動が関係しており、今日スポーツ界は危機に直面しています。これまで、日本のスポーツ指導(コーチング)は、各コーチの経験則に基づくものが主流でした。確かに、コーチが積み重ねてきた貴重な経験を基にするコーチングが日本のスポーツ界を支えてきたことは事実です。しかし、危機を乗り越えるためには、コーチが培ってきた経験を大切にしながらも、依存することなく、アスリートと共に学び、自らの資質能力向上に日々努め、新しい時代にふさわしいコーチングを追い求めることが必須となっています。このことは、日本のスポーツ界が変革を遂げる鍵とされています。

国も本腰を入れ、スポーツ界の健全化に向けて、取り組みを進めています。第一歩が先に触れた、新しい時代にふさわしいコーチングの整理です。これからの時代を見据えた望ましいコーチングの内容がまとめられました。その一つにチームづくりが挙げられ、コーチにはチームづくりに関する知識・技能が欠かせないことが明示されました。

実は、ここでも一体感が重要な役割を果たします。チームづくりでは、アスリートが主体的に競技に取り組んだり、メンバーが効果的に影響を及ぼし合ったりするなど、さまざまな成果を得るために、チームがまとまることを目指します。そのまとまりを生み出す上で、チームの一体感は源になることが研究で明らかにされています。つまり、チームの一体感を高めることは、チームづくりの出発点であり、コーチの重要な任務でもあるのです。

では、どのようにすれば、チームの一体感を高めることができるのでしょうか。残念なことに、この問いに対する明快な答えは、いまだ見つかっていません。私は、学生時代にバレーボール部の主将として、現役引退後はコーチとして、チームをまとめることに取り組んできました。しかし、いずれもメンバーそれぞれが優れた能力を持ちながら、力を一つに合わせることができず、上手くチームをまとめることができませんでした。この苦い経験がスポーツチームの一体感を研究するモチベーションとなっています。大学院時代から数年、研究を進めてきた中で、拙い知見ではありますが、スポーツチームの一体感を高める上で、チーム内の雰囲気が重要なポイントになることが分かりました。具体的には、チームの中でメンバー同士が自由にコミュニケーションを図れるような雰囲気がつくり出されると、チームに一体感がもたらされることが明らかになりました。スポーツチームの一体感を効果的に高める詳しい方法について、解明するにはもう少し時間が必要ですが、これからも先のような小さな発見を地道に積み重ねることで、コーチやアスリート、スポーツ界の役に立ちたいと考えています。

本学は、多くの優れたアスリートやコーチを輩出し、日本のスポーツ界を牽引してきた由緒ある機関の一つです。私自身も、本学出身者である吉田康伸教授(経営学部)や荒井弘和教授(文学部)からさまざまなことを学び、今日に至ります。まさに、本学の学風に掲げられる「自由と進歩」の機会を提供していただいた師のおかげで、個を育んでこられたと感じています。それに対する感謝と自覚を胸に、これからも本学が日本の、世界のスポーツ界を担う人材の宝庫となれるよう、学生や先生方と「一体感」をもって、努力していきたいと思います。拙いながらも、自らの研究を通じて、新しい時代を切り開く、創造的なアスリートやコーチを育てること。これが本学に育てられ、ここに戻った私に与えられた使命なのです。

(初出:広報誌『法政』2018年度11・12月号)

経済学部経済学科 山田 快

Kai Yamada
1985年東京都生まれ。法政大学社会学部社会学科卒業。順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科博士前期課程修了、同大学院スポーツ健康科学研究科博士後期課程修了。博士(スポーツ健康科学)。2014 ~ 2016年法政大学兼任講師、順天堂大学非常勤助教。2015年法政大学スポーツ研究センター客員所員、2016年より現職。専門分野はスポーツ心理学、スポーツコーチング学。最近の論文:「バレーボールが持っている魅力の可視化」(山田快 他、2019、バレーボール研究 21(1)、印刷中)、Yamada, K. et al. (2017) The Eff ect of Unity in Sport Teams on Athletes’ Mental Health: Investigating the Mediating Role of Resilience. International Journal of Sport andHealth Science, 15: 55-64.、Yamada, K. et al. (2013) A study of the unity of sports teams: Developmentof a scale and examination of related factors. Journal of Physical Education and Sport, 13 (4): 489-497.。