お知らせ

SDGs(持続可能な開発目標)は通過点 持続可能な未来への種を育てる(デザイン工学部建築学科 川久保 俊 准教授)

  • 2020年02月25日
お知らせ

デザイン工学部建築学科
川久保 俊 准教授


環境工学の観点から、未来の都市づくりを追究している川久保俊准教授。持続可能な未来の指針として、全世界で活動が展開されているSDGsの普及とその達成に向けて取り組んでいます。

より良い未来を持続させるためSDGs達成に向けて尽力

建築環境工学と都市環境工学を専門として、未来のあるべき建築・都市像を探究しています。

我々の世界は、経済、社会、環境のさまざまな課題を抱えています。そのような課題の統合的な解決に向けて、SDGs※1(持続可能な開発目標)の推進に注力しています。

研究者を志した時から、世界のさまざまな課題を解決するような研究をしたいと考えていました。その中でキーワードになったのが「持続可能な未来」です。我々が豊かな生活を送ろうとすることで、子どもや孫の代に負の遺産を残すことになってはいけない。現在も未来も良い環境を持続させていく手段を探究したい。その思いが、SDGsの理念と合致したのです。

SDGsは、健康や教育、技術革新、まちづくりなど、世界各地の普遍的な課題群を17の開発目標(ゴール)として構成した「人類と地球の繁栄のための行動計画」です。環境工学の観点からSDGsの達成を目指すことで、持続可能な世界の構築に寄与したいと考えています。

ただ、SDGsは2030年までの間に達成すべきと定められた期限付きの目標ですから、持続可能な未来を考える上での通過点に過ぎません。世界を変えようとするSDGsの理念は素晴らしいものですから、一過性の関心事で終わらせることのないように、その先の未来をも見据えながら、研究を深めていきたいと考えています。

現状を可視化することで自治体のSDGs促進に貢献

環境工学とSDGsの組み合わせは、多様な研究の可能性を生み出します。例えば、健康(SDGs3)をテーマとした研究の一例では、実験や質問紙調査などで検証しながら、住環境と居住者の健康状態の因果関係を解明し、より良い住まいの姿を探究しています。教育(SDGs4)に着目し、環境が学習意欲や集中力の持続に与える影響を調査し、学習効率を高めるための要因を探ることなども行っています。

研究室をあげて注力した取り組みとしては、全国の自治体を対象に、17の開発目標に則したSDGsの達成状況を調べて集約し、オンラインアプリケーションの「ローカルSDGsプラットフォーム」で公開することで、可視化しています。

SDGs達成に向けて国が呼びかけを強めても、具体的に何をしたらよいのか分からず困惑している地域も多いと聞きます。現状を可視化することで、自治体ごとの強み、弱み、課題などが明確になります。また、他の自治体の取り組みを知ることで、自分たちの現状を客観的に把握することもできます。

こうした調査研究では、実際に現地を訪れてのフィールドワークも重視しています。学生と共に現場の声を聞き、地域の実態を把握した上で、最適なソリューションを共に考えていく。その過程で得られるものこそが「実践知」だと考えています。自治体ごとに事情は異なるので、正解といえる答えはないのでしょうが、関係者の皆様と一緒に考えるプロセスを通じて学生は成長し、現地側でも第三者が加わることでの、新たな気付きがあります。その経験が、人とまちを成長させる活力となることを願っています。

学生の意欲を刺激しながら学びの場ときっかけを提供

まだ研究者としては修業半ばなので、日々学び成長しようと考えていますが、学生らの研究に対する行動力に驚きと刺激を受けています。

研究室では、SDGsの17のゴールを網羅する多様な研究が進んでいますが、その多くは学生主体で取り組んでいます。テーマの方向性を決めるきっかけを助言し、研究に必要な「場」を整えてあげると、自ら考えて模索しながら、驚くような研究成果を出しています。頼もしい限りです。

成果を出した研究は、学会で発表するなどして、社会に還元してこそ意味を持つと思っているので、学部生にも積極的なアウトプットを呼び掛けています。自分の研究の社会的なニーズを知ることができますし、実用性が認められれば企業から声が掛かることもあるからです。

学会への意欲的な参加などで発表の機会が増えたからか、ここ数年はコンスタントに受賞者が誕生しています。研究室の重要プロジェクトとして開発に取り組んだ「ローカルSDGsプラットフォーム」も第2回エコプロアワード※2の奨励賞をいただきました。「プラットフォームの開発はどこの会社に外注したのか?」とよく問われるのですが、全て学生達が一からプログラミングして開発してくれたもので一切外注はしていません。自分達が苦労しながら開発したものが世間からも認められて、奨励賞の受賞にもつながったという経験は、学生達にとっても大きな財産となると思います。このまま新しいことにチャレンジする気持ちを忘れずに、自由にのびのびと「実践知」を育てていってほしいと願っています。

SDGsを知り、理解してもらうための啓発活動にも注力したい

SDGsでは「地球上の誰一人として取り残されない、持続可能で包摂的な世界の実現を目指す」とうたわれています。それを実現するには、国や自治体、企業、教育機関や研究者だけでなく、世界中の一人一人が、自分たちに何ができるかを考え、行動につなげていくことが必要です。そのためにもまずは、SDGsとは何かを理解してもらうための啓発活動にも力を入れています。

例えば、2019年4月には、放送大学と環境再生保全機構の協力を得て「環境研究の最新の成果~SDGsの地域実装に関する研究~」というテレビ番組を作りました(YouTubeで視聴可能)。これは、SDGsにかかわる研究の紹介ということでセミプロ向けの番組でしたが、2019年10月には、より一般の方にもSDGsを学んでいただく番組を作るという趣旨で、無料で学べるオンライン学習サービス`内のコンテンツとして「SDGs(持続可能な開発目標)入門」を開講しました(受講登録および閲覧は2020年1月6日にて終了)。

2019年12月には「エコプロ※3」に出展し、エコプロアワードを受賞した「ローカルSDGsプラットフォーム」を中心とした研究室の取り組みを展示。学生たちが交代で、ローカルSDGsプラットフォームの概要を説明したり、SDGs情報がどのように可視化されるのか実演したりしながら、来場者に向けた周知に努めました。

現在は、ローカルSDGsプラットフォームの次なる構想として、企業のSDGsに関する取り組みを可視化し、企業間で情報交換ができる「ビジネスSDGsプラットフォーム」の構築を進めています。将来的には、産官学民が連携して、SDGsのニーズ(地域における課題)とシーズ(企業や研究機関が有する科学技術イノベーション)をマッチングさせることのできる、SDGsプラットフォームに育てていきたいと考えています。

本学でも2016年に制定された法政大学憲章で「持続可能な社会の未来に貢献します」と明言したことに始まり、SDGsに対する取り組みが全学に広がりつつあります。2018年12月には「法政大学におけるSDGs への取り組み」を示した、田中優子総長のステイトメントが公開され、2019年からは学部横断的にSDGsの理解を深める教育活動として「SDGs+プロジェクト」が発足しました。

この状況を好機として、研究者としても、教育者としても、持続可能な未来への種を育てることに寄与し続けていきたいと考えています。


関連リンク


※1 SDGs:Sustainable Development Goalsの略
※2 エコプロアワード:環境配慮に優れた取り組みに与えられる賞。旧・エコプロダクツ大賞で、2018年に刷新された。主催は一般社団法人産業環境管理協会。後援は財務省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省。
※3 エコプロ:環境に配慮した製品やサービスに関する展示会。1999年から、毎年12月に東京ビッグサイトで開催している。主催は産業環境管理協会と日本経済新聞社。会場内の特設ステージでは、エコプロアワード授賞式も執り行われた。

  • 研究室の学生たちは、それぞれSDGs17ゴールを視野に入れた研究テーマを追究。複数のゴールを包括したものもあり、その内容は多彩

デザイン工学部建築学科

川久保 俊 准教授

1985年長崎県生まれ。慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科卒業、同大学院理工学研究科開放環境科学専攻博士後期課程修了、博士(工学)。2013年本学デザイン工学部建築学科助教に着任、2016年専任講師を経て、2017年から准教授、現在に至る。2019年から本学SDGs+プロジェクトリーダー。環境工学の視点から未来のあるべき建築・都市像を探求中。建築学会奨励賞、日本都市計画学会論文奨励賞、山田一宇賞など多数受賞。