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【大学院生インタビュー】日本のアンデルセン・小川未明を評価する(人文科学研究科 博士後期課程 ステツェンコ・アリサさん)

  • 2024年07月08日
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国境を越えた絆を生むのは文化・芸術
研究者として創作者として相互理解に貢献したい

日本文学に魅かれ留学
本格研究のために法政へ

幼い頃からゲームやアニメを通して日本の文化に親しんでいた私が衝撃を受けたのが、高校生の時に読んだ安部公房の『人間そっくり』という小説でした。身の回りの世界を疑う現実と妄想が混沌とした物語に「こんなものが書けるのか」と感動し、日本文学を研究したいと思うように。日本語を勉強できるロシア国立研究大学経済高等学院の哲学科に進学し、3年生の時には交換留学制度を利用して法政大学に留学しました。日本文学に関わるコースで学び、共に文学を語り合う日本人の友人もたくさんできて、とても幸せな1年間でした。

学位取得後も日本への想いはやまず、文部科学省の奨学金を得て早稲田大学大学院に留学。研究生として幅広く学ぶ中で、とりわけ日本の児童文学への関心が高まりました。私には年の離れた妹がいて、もともと読み聞かせなどを通して世界各地の絵本や童話に触れており、特に日本の作品は優れていると感じていました。大学院では日本人の児童文学作家の豊かな想像力がどこから来ているか歴史をたどり、「日本児童文学の父」と言われる小川未明の存在を知りました。もっと本格的に学びたいと考え、修士課程に進学しようと思いました。

受験を考えた時に、自然と幸せな時間を過ごした法政大学の雰囲気が脳裏に浮かびました。

 

人文科学研究科 日本文学専攻 博士後期課程 ステツェンコ・アリサさん

リアリズムの「進化」という新たな評価軸を示したい

修士課程の論文では、他の院生が主に長編小説の分析に取り組んでいたことにも影響を受け、私も小川未明の長編小説『愚鈍な猫』を中心に、同時期に書かれた幾つかの短編小説を含めて論じました。未明の作品研究は思想面からアプローチされることが多いのですが、私は作品の世界観や表現技法に着目し、未明の文芸の基礎になっている明治期小説における自然表象の重要性、およびその多様性を示すことにより、未明の作品の新しい評価軸を提案しようと試みました。童話作家として高く評価される未明ですが、後年には代表作の一群とされる幻想童話から離れ、写実的な作風を強めました。それを衰退と論じる研究者もいますが、私は日常の“不思議”を追求する形のリアリズムへの変化は、むしろ作家としての進化の結果ではないかと考えています。博士後期課程では、きちんと評価されているとは言い難い未明の後期時代の作品を研究し、考察を深めていきます。今はその準備として資料を集め、一つひとつの作品を精読しています。

 

学ぶ姿勢が変化
将来は創作者としても活躍

専攻の授業を通して「知る」「調べる」ことの面白さに気付きました。ロシアで育った私は学業で優先されるのは成績や、他の人に褒められることと教わってきましたが、法政大学大学院で最も重視されるのはディスカッションです。充実した討議に備えて作品を調べ、掘り下げてこないのは、恥ずかしいことではなく「面白くならないから」と悟りました。学びの考え方そのものが変わり、質問をする力もかなり伸びました。教授陣はもちろん、先輩や後輩たちにも刺激を受け、世界の見方が鋭くなりました。

私は、子どもの頃から文芸創作に関心を抱いており、今後は大学院での研究成果も取り入れて、作家・マンガ家として活躍したいと思っています。今は図書館司書を主人公にした四コママンガを書き溜めていて、作家の島田雅彦先生にも見ていただきました。教授陣に作家や文芸批評家などの著名な先生がおられるのも魅力です。

世界はいま紛争や分断など混迷の時期にあります。私は母国の大学で政治・経済も学びましたが、結局のところ国境を越えた「心」の交流を促し、人々の間に強い絆を生みだすのは、文化と芸術しかない、という結論に至りました。人や国などのあらゆるレベルにおいて、平和のためには相互理解を深めることが切実に求められる今、私ができるのは自分の好きなこと、得意なことに粛々と取り組むことです。質の高い論文を完成させるのはもちろん、たくさんの人を楽しませる創作物を発表して、ささやかながら相互理解の一助になれればと思っています。

(初出:『大学院入学案内2025』)

 

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