お知らせ

継続的なフィールドワークを通じて住民の思いに寄り添う地域福祉を目指す(現代福祉学部福祉コミュニティ学科 宮城 孝 教授)

  • 2020年04月10日
お知らせ

現代福祉学部福祉コミュニティ学科
宮城 孝 教授


東北の被災地から沖縄に至るまで、さまざまな地域で社会福祉に取り組んでいる宮城孝教授。住民の声を代弁して社会とつなぎ、誰もが安心して暮らしていくための解決策を模索し続けています。

住民の声から課題を発掘し解決のための道筋を考える

地域福祉を専門に研究を続けています。研究の原点は、大学時代に重度の障がい者が入所する施設で、ボランティア活動をしたことでした。社会から離れて暮らさざるを得ない人たちがいることに疑問を覚え、「障がい者も子どもも高齢者も、地域の中で安心して暮らせる方法があるのではないか。そんなまちづくりに関わりたい」と思ったのです。

地域福祉はその地に住む人たちのためのものですから、住民の声を集めるフィールドワークを大切にしています。時間とともに、思いが変化することもあるので、継続的に機会を設け、丁寧に話を伺います。そうやって得た情報から、そこで暮らす人にとって何が大切なのか、どのような課題があるのかを洗い出し、問題の原因を掘り下げ、解決のための方策を考える――。それが私の研究スタイルです。

フィールドとして調査を始めた地域とは、いずれも長く関わり続けています。課題が明らかになっても、住民の意識や行動、行政の政策などがすぐに変わることはないからです。時間はかかっても、住民のエンパワーメント(自分たちが主体的に動こうとする力)を後押しするような支援活動を続けていきたいと考えています。

阪神淡路大震災の経験から陸前高田の復興を後押し

1995年、神戸での在勤中に遭遇した阪神淡路大震災は衝撃的でした。目を疑う光景が広がる中、神戸市社会福祉協議会と連携して支援活動に取り組んだ日々は、当事者として災害時のコミュニティがどうあるべきかを考える機会となり、その後の研究に大きな影響を及ぼしました。社会的にも、被災地でのボランティアの在り方など、教訓となって今に生きています。

近年、自然災害が頻発する日本では、思いがけない被災で日常を奪われ、時間を掛けて復興に取り組んでいる地域がいくつもあります。2011年の東日本大震災で甚大な津波被害に遭った岩手県陸前高田市もその一つです。

縁あって関わりができたことから、都市計画の専門家らと復興支援の「陸前高田地域再生支援研究プロジェクト」を始動させ、本学をはじめとする複数の大学が支援ネットワークを形成しました。この活動は、2017年度の「自由を生き抜く実践知大賞 ※1」の教員部門優秀賞をいただき継続中です。

陸前高田市は新たなまちづくりを推進し、2019年度の「SDGs未来都市」に選定されました。本学と陸前高田市は昨年末に「SDGs(持続可能な開発目標)推進を目的とした協定 ※2」を締結して結びつきを深めたので、これからさらに地域再生を後押しする輪が広がることを期待しています。

学生の視点で課題を掘り下げ実践知をつかみ取る

「地域福祉に大事な材料はフィールドに眠っている」と考えています。現地で住民と触れ合い、五感を駆使して生きたデータを集め、解決策を考えていくことが、地域福祉に携わるものの役割でもあります。

一口に地域福祉といっても、大都市と過疎化が進む地方とでは特性が違うので、それぞれの地域性を見極めながら、その地に住む人にとって望ましい福祉の在り方を探究することが重要です。その観点から、ゼミでもフィールドワークに注力し、学生の視点で、地域の課題に取り組んでいます。

2019年12月には、多摩キャンパスの周辺地域である八王子市を対象とした公開フォーラム「若者の視点から八王子における福祉のまちづくりを探る」を開催し、地域住民や福祉関係者と交流しながら、若者の視点で見いだした課題を、社会に向けて提起する機会を設けました。

学生は、フィールドワークで住民の声を集める聴き手としては、うってつけの存在です。住民にとって利害関係がない若者には気後れせずに話せるようで、聞き取り調査の中で、今まで語られなかった胸中が吐露されることもあります。そこに、見逃せない課題や、解決のヒントが隠されていることもあるのです。

豊かな自然に囲まれた多摩キャンパスは、福祉に携わろうとする学生に必要な心の豊かさ、心の余裕を育てるのに適した環境だと実感しています。しかし、今後ますます人口減少と超高齢化が進む日本の社会情勢を考えると、心の余裕を保つには、不安に立ち向かう力も必要です。未知の問題に直面したとき、正解が分からなくても、解決策はあると信じて、自分なりの答えを探し出す。その過程で得たもの全てを「実践知」として、人生を切り開く力に変えてほしい。教員として、その手助けをしたいと願っています。

東日本大震災発生から、まもなく10年。今なお終わらない復興の現実を広く知らしめたい

東日本大震災直後に始めた陸前高田地域再生支援研究プロジェクトの復興支援活動は、10年目に突入しました。現地を訪れた回数は60回を下りません。被災して間もない時期は短期間で情勢が大きく変わることもあり、1年目から2年目にかけては、日曜日の深夜に帰宅して月曜日の1限から授業をするような日々を送っていました。現在は、主に長期休暇を利用して、学生と共に現地に滞在しながら、住民への聞き取りやアンケート調査などを実施しています。

復興には長い時間が掛かります。被災者の方が一番願っているのは住宅の再建ですが、ただ新しく住宅を建てればよいわけではありません。当事者の思いを反映することなく再建活動を強行しても、地域への愛着を奪うことになってしまいます。

それぞれの家庭の事情や経済状況はさまざまなので、時間を掛けて、どのような生活に戻りたいのか、どのように再建したいのか、被災住民たちの声を聞く――。専門家や行政がそうしたプロセスを丁寧に踏んだところは、地域再生がうまくいっています。

住民の声を知ることが復興に欠かせない一歩だと思うので、陸前高田地域再生支援研究プロジェクトで得られた調査結果は、現地の行政や議会、地元のマスメディアなどに向けてフィードバックすることを心掛けてきました。さらに、東日本大震災発生から丸10年という節目のタイミングに合わせて、活動記録を書籍化することにしました。すでに書名は『仮設住宅その10年 陸前高田における被災者の暮らし』に決定し、出版に向けての準備が進んでいます。

災害大国である日本では、地震、津波、台風、洪水、土砂災害、火山噴火など、さまざまな自然の脅威にさらされ、ある日突然、それまでの暮らしが一変するような深刻な被害を受けることがあります。そこから、日常を奪われた住人にとって、長く苦しい時間が始まります。復興はどのように進むのか、被災者が平穏な暮らしを取り戻すために必要なものは何か。時間の経過とともに、人々の関心は薄くなりがちなので、被害地域が直面している復興の現実を、できるだけ多くの人に知ってもらいたい。被災者の生の声の記録を、今後の復興を考えるための資産として活用してほしいと考えています。

現在、新型コロナウィルスの感染は、わが国だけでなく世界的に重大な被害をもたらしています。まだ先が全く見えない状況であり、今後、多くの人々の暮らしに深刻な影響をもたらすでしょう。この大過に対して、どのように対処していくか。人類の英知、また信頼と協働の取り組みが問われることになるかと思います。

韓国地域社会福祉学会にて招聘講演(2019年11月、韓国湖西大学にて)

現代福祉学部福祉コミュニティ学科

宮城 孝 教授

1957年静岡県生まれ。学習院大学法学部政治学科卒業、日本社会事業学校研究科卒業後、東洋大学大学院社会学研究科社会福祉学専攻博士前期課程修了、日本社会事業大学大学院社会福祉学研究科博士後期課程修了。博士(社会福祉学)。東海大学健康科学部社会福祉学科専任講師、助教授などを経て、2001年より本学現代福祉学部助教授に着任。2005年より教授、現在に至る。日本地域福祉学会副会長、本学多摩学生センター長を務める。