12月

東京六大学野球連盟結成90周年記念祝賀会挨拶

2015年12月06日

12月

東京六大学野球連盟結成90周年、まことにおめでとうございます。

この記念すべき年に、当番校としてご挨拶できますことを、たいへん光栄に存じます。

1925年発足した六大学野球は、先の戦争の時には2年間、中断させられ、連盟もいったん解散させられたと聞いております。しかし戦後は一度の中断もなく今日まで続いてきました。
まことに六大学野球は平和の象徴です。

明治神宮野球場もまた、六大学野球の実施拠点として、長い歴史を刻んできました。この4月11日、春季リーグ戦の開始日に、当番校総長として、伝統ある明治神宮野球場において、日本の伝統である着物、はかまで始球式ができましたことは、私の生涯、忘れられない思い出になることでしょう。

私にとって最初で最後の始球式の際は、入学式や卒業式の式辞を読むときより、あるいはテレビの生番組で発言するときより、ずっと緊張しまして、せっかく教わった基本的なポーズすらすっかり忘れてしまい、頭が真っ白になった状態で、ただただ懸命に投げました。

日本に平和と安定が続くのであれば、のちに振り返って、総長としての体験の中で、おそらく最も緊張した瞬間になろうかと思います。また、そうであって欲しいと思います。

さて、六大学野球は日本のアマチュア野球の発展に大いに貢献したばかりでなく、社会人野球やプロ野球に多くのOBが尽力して来られました。法政大学野球部も多くの優れた選手と、野球殿堂入りの選手たちを輩出してきました。「六大学野球史上、優勝数も最多です」と、これが1ヶ月と少し前なら言えたのですが、残念ながら今季、それが言えなくなりました。もう少し早く90周年祝賀会をやっていただきたかったです。

また、今年は初めて、東大からも大いに感謝されました。私がときどき出ているテレビ番組のスポーツコーナーではほとんど六大学野球を話題にしないのですが、東大に負けたときだけ、いや、東大が勝ったので、私の眼の前でわざわざ話題にして下さいました。

しかし、ほかの五大学の総長、学長の皆さんとそういう話をするとき、私を含め、みな、笑いながら笑顔で話します。勝っても負けても、皆、六大学野球の話題は楽しいのです。私は、六大学野球のもっとも大きな価値は、皆が勝ち負けを超えて話題を共有し、笑いながら話せることだと思っています。

また選手達にとっては、生涯のなかで、誰もが経験できるわけではない、極めて充実した時間を持つことができる、ということだと思います。

1943年、神宮野球場のすぐ眼の前にある神宮外苑では、「学徒出陣」の壮行会がおこなわれました。私はそれを考えたときに、六大学野球の価値に改めて思い至りました。六大学はすべて、総長・学長が学生を戦場に送り出した「学徒出陣」の記憶をもっていると思いますが、そのことを総長・学長が話題にすれば、沈痛で深刻な思いにうち沈むばかりです。

一方、六大学野球の歴史は、笑いと楽しさと充実の歴史です。いわば、生命力の躍動の歴史です。サッカーやラグビーに押されぎみになっているとは思いますが、楽しさとともに築いてきた90年は、簡単には終わりません。100年、200年、野球がこの世に存在する限り、この生命の躍動の歴史を刻んでいっていただきたい、と、心から願っております。