5月

平川新さんのこと

2015年05月22日

5月

毎日新聞書評委員をつとめていたとき、小学館「日本の歴史」シリーズのなかの近世(江戸時代)を扱った4冊を書評しました。その中に平川新著『開国への道』があったのです。『開国への道』は、農村に注目することによって、どのように庶民が自ら社会を作りあげてきたかを描き、同時に世界の状況の中に日本を置いて分析した本でした。キーワードは「地域のリーダー」と「環太平洋の時代」でした。

平川さんには『紛争と世論―近世民衆の政治参加』(1996年・東京大学出版会)という著書もあります。江戸時代を「世論の時代」と位置づけたのです。ここでいう世論とは、政治に影響を与えるある集合的な民衆、庶民の意見のことです。これによって争点の所在が明らかになると、その後の合意形成の動きになります。平川さんは「肥料国訴」という、肥料の消費者であるとともに、それを生産手段とする生産者としての農民が起こす訴訟をもとに、世論と合意形成のプロセスを解き、また、地域と国家の関係を追求しました。

平川さんは「農民(百姓)」と「地域」の活気を取り上げ、さらにグローバルなまなざしをもって、江戸時代のイメージを大きく変える仕事をして来られました。まさに社会派・庶民派・グローバル派、法政大学ならではの視点ですね。

平川さんはその生き方でも、教育という課題に大きな示唆を与えて下さるかたです。中学卒業後、「なぜ自分は勉強しなければならないか」に納得がいかず、高校進学をせずに働いたのです。やがて働きながら勉強の必要性を感じ、定時制高校に通います。そこで「歴史」と出会い、生涯の仕事にしたいと思うようになります。選んだのが法政大学の通信教育部でした。なぜなら通信という方法だけでなく、夜間の通年スクーリング(現在の春期・秋期スクーリング)があり、働きながら勉強ができたからでした。そして次に、通教から史学科への転籍試験に合格し史学科の学生として卒業します。教えを受けたのが、やはり法政大学の卒業生で日本史の大家、故・村上直先生でした。

平川さんはその後、東北大学の大学院に進学なさって東北大の教授になりますが、そのあらゆる過程で、働くことと学ぶことを両立させておられました。就職するための大学ではなく、生涯学び続けるための大学でした。必要だから学ぶ、納得して学ぶ、どうしても学びたいことがあって学ぶ――これからの大学は、まさにそういう場を提供しなければならないのです。

今は宮城学院女子大学の学長として力を尽くしておられます。アメリカ人の女性宣教師が建てた130年の歴史がある大学です。就任してまだ1年ですがすでに大きな改革に着手し、1学部10学科を、女性のための「現代ビジネス学部」を含めた4学部に再編してスタートするとのことです。

素晴らしい卒業生とおめにかかることができました。校友会宮城県支部に、深く感謝いたします。