2014年度

Vol.76 江戸人の考えた「日本」と「世界」

2014年12月04日

2014年度
(左)『画本異国一覧』春光園花丸作、岡田玉山画。1799(寛政11)年序。アジアから西欧の53の国を解説した絵本。北アメリカには「尸頭蛮」という、深夜に首が伸びて汚物を食い荒らして体に戻る怪物の国がある、というように空想上の国や荒唐無稽な情報も含まれている(右)『万国一覧図説』古屋野意春著、宮本君山画。1810(文化7)年刊。著者の古屋野は江戸中期~後期の医師。世界はアジア州、ヨウロツハ州、アフリカ州、南北アメリカ州、メカラニカ州の五大州から成り立つとし、各州の国の地理、風俗などを紹介している

(左)『画本異国一覧』春光園花丸作、岡田玉山画。1799(寛政11)年序。アジアから西欧の53の国を解説した絵本。北アメリカには「尸頭蛮」という、深夜に首が伸びて汚物を食い荒らして体に戻る怪物の国がある、というように空想上の国や荒唐無稽な情報も含まれている(右)『万国一覧図説』古屋野意春著、宮本君山画。1810(文化7)年刊。著者の古屋野は江戸中期~後期の医師。世界はアジア州、ヨウロツハ州、アフリカ州、南北アメリカ州、メカラニカ州の五大州から成り立つとし、各州の国の地理、風俗などを紹介している

法政大学国際日本学研究所では、2010年度から始まった大型研究プロジェクト「国際日本学の方法に基づく〈日本意識〉の再検討-〈日本意識〉の過去・現在・未来-」(文部科学省私立大学戦略的研究基盤形成支援事業)が最終年度を迎え、その集大成として7月26日(土)に国際日本学シンポジウム「〈日本意識〉の過去・現在・未来」を開催しました。

今回紹介するのは、この研究過程で国際日本学研究所が蒐集した貴重資料の一部です。

古代から中国を範として国づくりをしてきた日本人は、中世までは仏教的世界観から自分たちの居場所を辺境の小国と考えていました。近世に入り、中国が「中華思想」を持つ漢民族の「明」から満州族の「清」の時代に移ると、朝鮮が儒教の正統を守り「小中華」を唱える一方で、儒教では劣る日本は「武の国」として日本中心の世界観を基に、日本こそが「中華」と考える「日本型華夷意識」を作り出しました。

『絵本 武者鞋』北尾重政画。1787(天明7)年序。江戸時代中期に活躍した浮世絵師重政による武者絵。左は義経と弁慶を描いたもの

『絵本 武者鞋』北尾重政画。1787(天明7)年序。江戸時代中期に活躍した浮世絵師重政による武者絵。左は義経と弁慶を描いたもの

清や朝鮮、琉球などの近隣諸国が日本人にとっての異国であり、そのさらに外の国は外夷と呼んで野蛮人と見なす考え方が定着していったのです。

江戸期には外国に関する情報量も増え、それらは必ずしも正確ではなく不十分でしたが、かえって人々の好奇心を高め、出版物の普及とともに外国の情報を満載した書籍が数多く刊行されました。その内容といえば、国ごとに独特の風習、言語や気候風土があり、人間離れした身体的特徴を持つ民族が暮らすという素朴なもので、当時の日本人の「国」の概念が表れています。

同時期に武者絵がブームとなりますが、錦絵に描かれた色鮮やかな勇姿は「武の国」という自国イメージを人々に刷り込む役割を大いに果たしたと思われます。この時代には逆に、国の名に用いられた「和」の字から「やわらぐ国」、そこからさらに好色の国という、「武の国」とは相反する認識もありました。

『日本百将伝(全)』歌川国芳画。国芳は江戸時代末期を代表する浮世絵師の一人。幼少期に重政の『絵本武者鞋』などを写したという。神代から戦国時代後期の有名な武将100人の活躍を絵入りで紹介している

『日本百将伝(全)』歌川国芳画。国芳は江戸時代末期を代表する浮世絵師の一人。幼少期に重政の『絵本武者鞋』などを写したという。神代から戦国時代後期の有名な武将100人の活躍を絵入りで紹介している

これらの研究成果の要点は、今年度中に刊行となる田中優子総長編『和の国?武の国?神の国?!-江戸人が考えた日本の姿』(仮題)にまとめられる予定です。

『絵本 琉球軍記』宮田南北作、岡田玉山画。1835(天保6)年刊。墨刷りのみの初版と見られる貴重資料。「為朝/外伝 鎮西琉球記」という内題で、舞台を鎌倉時代に移して将軍源頼朝の命を受けた薩摩の「志摩多忠久」氏を主人公に琉球の様子を描いている

『絵本 琉球軍記』宮田南北作、岡田玉山画。1835(天保6)年刊。墨刷りのみの初版と見られる貴重資料。「為朝/外伝 鎮西琉球記」という内題で、舞台を鎌倉時代に移して将軍源頼朝の命を受けた薩摩の「志摩多忠久」氏を主人公に琉球の様子を描いている

取材協力:法政大学国際日本学研究所 小林ふみ子文学部日本文学科教授

(初出:広報誌『法政』2014年度10月号)

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