社会・労働問題の研究所として日本で最も古い歴史を持ち、海外にも知られる法政大学大原社会問題研究所では、多数の貴重書・資料を所蔵しています。近年、その資料価値に注目が集まっているのが、社会・労働問題に関連するポスターコレクションです。
日本にポスターという形式が定着したのは、石版(リトグラフ)印刷の技術が導入された以降の明治中期頃といわれます。それ以前は浮世絵の伝統を受けた木版画が一般的でしたが、耐久性の低い木版よりも多くの枚数を印刷でき、より大きな判が刷れる石版印刷の普及によって、デパートの美人画ポスターをはじめ商業ポスターが全盛を迎えます。
その後、大正期に米騒動で社会運動が一気に高まると、労働組合や農民組合などの労働団体がポスターの有効性に気づき、社会運動関連のポスター、いわゆるプロパガンダ・ポスターが登場します。
さらに昭和期になって、政府や地方自治体による公共ポスターが作られました。労働災害防止や一般国民の健康増進、火災予防などを訴えたものが中心でした。 このようにして、商業ポスター、プロパガンダ・ポスター、公共ポスターという、ポスターの3つの大きなジャンルが戦前に成立しました。本研究所には、戦前期のもの約3000点、戦後期約1500点のポスターを所蔵しており、とくに戦前のプロパガンダ・ポスターは、他に類を見ない規模と内容を持ちます。
また、戦前のコレクションの中で貴重なのが、1928(昭和3)年の第1回普通選挙のポスターやチラシです。内務省のポスターのほか、政党や候補者のポスターが見られ、これらの多彩な形態や表現から、日本におけるイメージ選挙の出現が第1回普選に見いだすことができるという研究者もいるほどです。 これまで社会運動の研究はさまざまに行われてきましたが、その現物資料となるのが、当時は役目が終われば紙くず同然だったこれらポスターやチラシです。それが時代を経て、当時の状況を生き生きと今に伝える第一級の資料へと生まれ変わってくるのです。
本研究所では現在、これまで研究が手薄だった公共ポスターも収録した、協調会『産業福利』の完全復刻に取り組んでいます。
参考文献=『ポスターの社会史〜大原社研コレクション』法政大学大原社会問題研究所編、梅田俊英著
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