2011年度

Vol.4 伊波普猷の直筆原稿と、「楚南家文書」

2011年05月18日

2011年度

法政大学沖縄文化研究所 所蔵資料

沖縄文化研究所は、沖縄が日本に復帰した1972(昭和47)年に設立されました。琉球列島と周辺地域に関する数多くの資料、図書を所蔵しており、中でも貴重なのが、沖縄研究の創始者で「沖縄学の父」と呼ばれる伊波普猷(いは・ふゆう、1876〜1947)の直筆原稿です。

伊波普猷は東京帝国大学で言語学を学んだ後、故郷の沖縄で言語・文学・歴史・民俗などを総合した沖縄研究を行い、とくに『おもろさうし(おもろそうし)』研究に多大な貢献をしたことで知られています。

『おもろさうし』は、首里王府が沖縄を中心にした島や村に伝わる神歌を採録、編さんした書籍で、1531年に第一巻が成立、それから100年近くをかけて全二十二巻一五五四首が編さんされました。明治時代に、八重山・台湾研究の先駆として知られる田代安定が『おもろさうし』を発見し、その研究を伊波普猷に委ねたのです。ところが、古い言葉で難解な内容の歌謡であるため、伊波普猷ののちも今なお多くの研究者によって解読作業が続けられています。

写真(1)は、伊波普猷の直筆原稿のうち、『おもろさうし』の研究ノート(左)と、『おもろ落穂集』と題した研究論文です。研究ノートは取材事項に赤字で細かく検証が行われ、各ページ余白がなくなるくらい書き込まれているのに驚かされます。現在、沖縄文化研究所では28冊の研究ノートを所蔵しています。
写真(2)は伊波普猷の晩年の直筆原稿で、『沖縄琉球物語』と題して、沖縄の歴史を書き記した遺稿。カーボン紙で複写しながら書いたうちの複写側のようで、写真のページで絶筆となっています。
沖縄文化研究所にはまた、「楚南家文書(そなんけもんじょ)」という非常に貴重な文献があります。
これは、琉球王国旧久米村(中国人居留区)で中国との外交実務を携わっていた楚南家に伝わる18世紀から19世紀にかけての文書です。
写真(3)はそのうちの、外交実務に必要な中国語を学ぶためのテキストに相当するもので、身体の各部分の呼称を絵で表した単語集や会話集など3点がセットになっています。沖縄における中国語学習史を研究する上でも貴重な資料です。
参考文献:『おもろさうし』(上・下)外間守善 校注(岩波文庫)

  • 写真(1) 『おもろ落穂集』(右)はすでに伊波普猷全集などに収録されているが、研究ノートは未公開で、貴重な研究資料となっている。

  • 写真(2) 伊波普猷の遺稿。普猷夫人で歌人の故伊波冬子氏より寄贈された。

  • 写真(3) 『おもろさうし』第一巻の冒頭(写本)。国王と王都首里を讃え、祭祀にかかわる神女を讃えた「首里王府の御さうし」。

  • 写真(4) 所蔵文献の中でもとりわけ貴重な「楚南家文書」。この3点が揃っているのは国内外を通じてきわめて珍しいという。

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