2011年度

vol.2 世界にひとつの光悦謡本と、最古の能役者肖像画

2011年04月27日

2011年度

野上記念法政大学能楽研究所 蔵書

1952(昭和27)年に発足した能楽研究所は、わが国唯一の能楽総合研究機関として知られ、その蔵書は約4万点にのぼります。研究所が収集した資料のほかに、寄贈を受けた資料にも貴重なものが少なくありません。

「法政大学鴻山文庫」は、江戸時代から続く宝生流謡本版元わんや書店社主、江島伊兵衛氏の旧蔵書。室町から現代までの古今東西の能楽資料約1万点を数え、本学が世界に誇る能楽コレクションです。とりわけ貴重なのが、「光悦謡本(こうえつうたいぼん)」のコレクションです。

「光悦謡本」は、慶長期に出版された観世流の謡本で、嵯峨の豪商・角倉素庵が製作に関与したとされている「嵯峨本」の一種です。

もともと謡の稽古のための謡本は、秀吉、家康の奨励によって能が武家の式楽(公式の音楽・演劇)となってから、武士の教養源として人気が高まりました。印刷の進歩とともに謡本の出版が盛んになると、謡は町人の間にも流行していきました。

光悦謡本の中で最貴重本である『大原御幸』。 表紙と本文すべてに雲母模様が摺られていて美しい。

光悦謡本の中で最貴重本である『大原御幸』。 表紙と本文すべてに雲母模様が摺られていて美しい。

光悦謡本は、身分の高い人や富裕商人、上流武家などの求めに応じて作られたと考えられ、表紙にさまざまな雅趣に富む雲母模様(きらもよう)を摺り込んだ豪華な装丁と、古活字版の技術によって印刷された光悦流書体の文字の美しさから、「嵯峨本の雄」とも称賛されています。

コレクションの中でも「色替り異装本」の『大原御幸』は、表紙だけでなく色替り料紙すべてに雲母模様を摺った、光悦謡本の中で最も華麗なものです。能楽研究所の西野春雄所長(2006年当時。現在名誉教授)によれば、『大原御幸』は高位の人への進物などの特別な用途で作られたもので、世界にひとつしかない最貴重本とのことです。

絵画資料として貴重なのが、「観世新九郎家文庫」所蔵の、現存する最古の能役者肖像画『宮増弥左衛門親賢画像』です。「観世新九郎家文庫」は、服部康次氏蔵小鼓観世家文書を寄贈されたもので、約700点の能楽関係資料からなります。

宮増弥左衛門親賢は16世紀前半に活躍した小鼓役者。画像は掛け軸になっていて、小鼓名人と言われた親賢が、侍烏帽子・長袴・小刀姿で、赤銅色の鼓桶に腰掛けて小鼓を打つ姿が鮮やかに描かれています。この姿が当時の能役者の正装と推測されるとのことです。

鮮やかな色彩の現存最古の能役者肖像画『宮増弥左衛門親賢画像』

鮮やかな色彩の現存最古の能役者肖像画『宮増弥左衛門親賢画像』

描いたのは、窪田統泰という16世紀後半の絵師。また、画像の上部の賛は、安土桃山時代の禅僧で、近世狂歌の祖といわれる雄長老こと英甫永雄(えいほようゆう)が書いたものです。

光悦謡本の表紙。豊かな色彩の地に摺られたつや消しの銀のような雲母模様は、鶴や蝶、竹、松林に波など日本の文様が多いが、唐草など外来の文様を摺ったものも見られる。

光悦謡本の表紙。豊かな色彩の地に摺られたつや消しの銀のような雲母模様は、鶴や蝶、竹、松林に波など日本の文様が多いが、唐草など外来の文様を摺ったものも見られる。

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