教員紹介(2016年度)

就職やアルバイトをめぐる諸問題に着目、警鐘を鳴らす キャリアデザイン学部キャリアデザイン学科 教授 上西 充子

  • 2016年07月12日
教員紹介(2016年度)

プロフィール

キャリアデザイン学部キャリアデザイン学科 教授 上西 充子

キャリアデザイン学部キャリアデザイン学科
教授 上西 充子(Mitsuko Uenishi)

1965年奈良県生まれ。東京大学教育学部卒業後、同経済学部に学士入学し卒業。同大学院経済学研究科第二種博士課程満期退学。特殊法人日本労働研究機構(現在は独立行政法人労働政策研究・研修機構)に入職し、研究員として企業での職業能力開発や公共職業訓練、フリーター問題などに関する調査研究に従事。2003年キャリアデザイン学部設立に伴い、同学部の専任講師に。その後、同学部助教授、准教授、キャリアセンター副センター長などを経て、2013年よりキャリアデザイン学部教授に就任、現在に至る。大学院キャリアデザイン学研究科の授業も担当。

働く若者が直面する劣悪な労働環境問題 解決の道を探したい

卒業して社会に出る前に身を守れる知識を伝えたい

キャリアデザイン学部発足間もないころに開催された、料理交流会

キャリアデザイン学部発足間もないころに開催された、料理交流会

規律や秩序という名目で、支配従属的な関係が強いられる状況が見過ごせない。「それはおかしい」と声を上げ、解決の道を探したいという問題意識が私の研究の原動力です。発端は中学時代に感じた学校教育への疑問でした。

当時の中学校は全国的に荒れ気味で、公立校では生徒を押さえ込んで管理しようとする指導が見られました。特定の生徒に対して、恣意的に評価を下げたりすることもあり、抗議をすれば、反抗的と受け取られてしまう。そんな息苦しい学校の在り方、教育の在り方に疑問を抱くようになりました。

疑問を解明しようと、教育学部に進学しましたが、そこで答えは見つけられませんでした。けれど、経済を学び直した際、企業と労働者の支配従属的な関係から生まれる問題は、自分が問題視した学校教育と根っこが同じでつながっていると気づいたんです。

そこから就労に伴う問題に取り組み始め、今は主に学生や働き始めたばかりの若者をめぐる諸問題を研究しています。長引く不況の影響から表面化してきているブラック企業・ブラックバイト問題にも取り組み、2013年9月からは任意団体である「ブラック企業対策プロジェクト」に参加しています。

就職やアルバイトなどで社会に出て働き始めるとき、ほとんどの若者は労働者の権利や法律に関する知識を持っていません。事前に準備や心構えもないままに、社会に飛び出すようなものです。そのため、過酷な労働環境を押し付けられても、適切な対処方法が分からない。仕事に対する責任感や迷惑をかけたくないという思いから、言われるがままに我慢して、ブラック企業による被害を深刻化させています。

現状を打破して、問題解決の道を探るためには、労働法に基づいた正しい知識を学ぶことが重要です。そこで近年は、労働法に詳しい方々を授業のゲストに招いて話をしていただく機会も設けています。例えば、濱口桂一郎氏はイェーリングの『権利のための闘争』を引用して「自分たちが持つ権利は、誰かが守ってくれるわけではない。仮に侵害されたなら、相手と闘ってでも自分たちで守らなければ、その権利はやせ衰えてしまう」という教訓を伝授してくれました。

他にも「医者にかかるときと同じように、おかしいと思ったら、早めに専門家に相談するといい」という佐々木亮弁護士。「自分を責めたり、諦めたりしないでほしい」という労働相談NPO法人POSSE(ポッセ)のメンバーなど、現場をよく知る人たちからの的確なアドバイスを受けて、学生たちだけでなく、私自身も触発され、新たな気付きを得ています。

ネットを通じた情報発信に可能性を感じる

ゼミの学生から贈られた、写真付きの寄せ書き

ゼミの学生から贈られた、写真付きの寄せ書き

東日本大震災後に使い始めたツイッターをきっかけに、インターネットを通じた交流や情報発信の可能性に注目しています。当初は情報収集ツールのつもりで利用していたのですが、情報発信や問題提起をしている人たちに刺激を受け、自分からも発信するようになりました。

面識はなくても、共感できる考え方をする人、同じような問題に取り組んでいる人に出会ったり、同じ時代を共に生きていると感じられることは自分の支えにもなります。日頃は気ままにマイペースで行動するのが好きで、映画も一人で見に行くような私なので、つかず離れずの距離感を保てる関係が心地いいんです。

ネットでの発信を始めたことがきっかけで、仕事の幅も広がり、4月からは日経カレッジカフェ(※)で「ブラック企業との向き合い方」というタイトルの連載記事を書くようになりました。法政の学生だけでなく、キャリアを意識した大学生に、広く情報を伝えられる機会にできればと願っています。

器用にやり過ごすのではなく自分の言葉を持ってほしい

日本労働研究機構に勤務していたころ(右から2番目)。同僚だった東京大学の本田由紀教授(左から2番目)とは今でも親交を深めている

日本労働研究機構に勤務していたころ(右から2番目)。同僚だった東京大学の本田由紀教授(左から2番目)とは今でも親交を深めている

今の学生たちはおとなしいですね。相手の意向を推し量って当たり障りのない答えを探し出し、人付き合いをそつなくこなすことは上手です。その一方で、自分の考えを表に出すことは慣れていないように思います。

せっかくの大学生活を、器用にやり過ごすだけで終えるのはもったいないです。図書館には膨大な資料があり、インターネットにも信頼できる新しい情報はたくさんあります。今日的なテーマをシンポジウムなどに参加して無料で学ぶこともできます。周りにある潤沢な環境を生かしながら、深く考え、自分の言葉を持つ努力をしてみてください。その経験が、将来のさまざまな問題に対処する上で、自分の力を発揮する際の基盤になると思います。

(初出:広報誌『法政』2016年度5月号)