文学部 教授 中沢 けい

2011年06月13日

プロフィール

文学部 教授 中沢 けい(なかざわ けい)

1978年 小説「海を感じる時」でデビュー。
      第21回同作品で群像新人賞を受賞。
1983年 明治大学政治経済学部卒業。
1985年 小説「水平線上にて」で第7回野間文芸新人賞を受賞。
2005年 法政大学文学部教授に就任。

テクニックを意識せず、自らのテーマを表現する力を身に付けてほしい

作家、研究者としての活動について教えてください

文学部 教授 中沢 けい

文学部 教授 中沢 けい

小説は常に書き続けています。ここ数年、意識するようになったのは紙という媒体にふさわしい内容の作品を書く、ということです。最近の小説には、携帯電話で読むものや電子書籍として世に出てくるものが増えています。私自身は「紙と電子媒体、どちらの方がより優れているか」という見方はしていません。それぞれの媒体が得意とする表現があるのだから、その特性を生かして別々のジャンルとして発展させていけばいいのではないかと思っています。

紙でつくる本には、素敵な比喩や微妙な言い回し、紙の質感やデザインまで含めた、やはり紙でしか楽しめない、紙だから面白い、という表現があります。出版、印刷、流通と電子媒体に比べて手間やコストはかかりますが、そうするだけの必然性のある作品を書いていきたいと思っています。

研究では、作家の島尾敏雄さんを取り上げてみたいと考えています。戦後の日本文学史を再編するうえで、島尾さんを軸にすると新しい発見があるのではないかと興味を持ちました。これまで、1945年以降の作家は世代で分けて考えられていましたが、戦後の作家たちの有り様は世代論ではとらえきれません。作品の味わいや趣向といった観点で整理することで、これからの日本の文学作品のあり方も変わってくるだろうと思っています。

また、東アジア文学フォーラムという日本、中国、韓国の文学者が共同で東アジアの文化を築くことを目指した文化会議にも参加しています。なかでも印象的なのは、各国の文学者が意見を交換する、そのコミュニケーションの過程です。通訳の方はいるのですが、次第に筆談や片言の英語で直接のやり取りが始まります。それぞれが自分の話せる言語を駆使して、誰かが翻訳してくれたものをさらに翻訳して伝えるなど、言葉による緊張感や助け合いが楽しくもあります。言葉の成り立ちを意識させてくれる面白い体験です。同じ作家であっても、国によって社会に対する個人のスタンスが異なることも実感できます。文学は政治や経済とは関係ないと思われがちですが、文学を理解するには背景となる社会について知ることが必要だと認識しています。

作家になった経緯を教えてください

東アジア文学フォーラム、門司港ホテルのロビーで韓国の女性作家と

東アジア文学フォーラム、門司港ホテルのロビーで韓国の女性作家と

もともと本が好きで高校生のころまでは、室生犀星、三島由紀夫、林芙美子などを読んでいました。自分でも小説を書きためていて、それを自費出版したいと思っていました。ものづくりとして、一冊の自分の本をつくることが当時の目標。小説家になりたいと思ったことはなく、それ以前に、まさか自分がなれるとは思っていませんでした。

ところが、高校時代に執筆した『海を感じる時』で群像新人文学賞を受賞し、大学1年で作家としてデビューすることになりました。

この時の選考委員のひとりが島尾敏雄さんで、私の作品を一番評価してくださったのだそうです。

実は3月11日の大震災で、自宅の本棚から、1985年に野間文芸新人賞を受賞したときの記念写真が落ちてきました。この写真の存在はずっと忘れていたのですが、そこには島尾さんと私が一緒に写っていました。島尾敏雄研究を考えるようになった最近になって、偶然、このような写真が出てきたことに、不思議なご縁を感じています。

ゼミではどのような指導を行っていますか

ゼミでは小説を中心とした実作の指導を行っています。学生たちにはまず、互いの作品を批評し合ってもらいます。批評される側に立ったときは、自分の作品を評価してくれる人、否定する人、どの意見をどう受け止めるかを判断するのが難しい点です。学生が自分の力で考えられるように、私はなるべく口を挟まないように心がけています。

本人が意識せず書いた部分が思わぬ高い評価を受けるときもある。もちろんその逆の場合もあります。自分の手法を知り抜くとそれを意識し、下手になることを避けるために決まりきったものしか書けなくなります。学生にはテクニックを意識せず、自らのテーマの根幹を創作で表現する力を身に付けてほしいと思っています。

私自身も若い学生たちから新しいことを教えてもらうことが多くあります。家では息子や娘から「大学で教えるようになってよく教育されてきた」などと褒められています(笑)。