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キャリアデザイン学部 准教授 筒井 美紀

2011年04月25日

プロフィール

キャリアデザイン学部 准教授 筒井 美紀(つつい みき)

1991年に東京大学文学部を卒業し、銀行へ就職。
1995年に退職して東京大学教育学部へ学士入学。
1999年同大学教育学研究科総合教育科学専攻修士課程修了。
2004年同大学院より博士学位取得。
京都女子大学を経て10年より本学において現職。
主な著書・訳書に「『キャリア教育』で充分か?『希望ある労働者』の力量を養うために」(本田由紀編著『転換期の労働と〈能力〉』大月書店)、
『仕事と若者』(共編著:日本図書センター)、
『キャリアラダーとは何か』(共訳:勁草書房)などがある。

未来の社会を洞察しながら目の前の課題に全力で取り組む
人生には単純な設計図は通用しないから

どんな研究を しているのですか

キャリアデザイン学部 准教授 筒井 美紀

キャリアデザイン学部 准教授 筒井 美紀

社会的に不利な人々の就業支援政策について、日米の比較研究をしています。就業支援政策にはあっせんや教育・訓練だけでなく、労働問題の相談やいわゆる「ひきこもり」のケアなど、幅広い内容が含まれています。私の専門は教育社会学・労働社会学ですが、教育訓練や相談の現場だけでなく、自治体やNPOへの助成金の仕組みや関連法規なども含めて政治・政策全体を見ながら現場で起きている問題を追跡しています。

自治体やNPOは今、財政難に喘いでいて、就業支援などの事業を行うには助成金に頼るしかありません。助成金には、たとえば「ふるさと雇用再生特別基金事業」のように一律に配分されるものと、モデル的な事業を支援する「競争的資金」があります。競争的資金は申請事業に対して所管省庁が審査し、選択して助成を行う仕組みです。財政難の自治体では競争的資金が獲得できるかどうかが事業の実施に直結しているのですが、助成期間は短く、1年かせいぜい3年まで。そのため、せっかく事業がスタートできても第二年度には次の助成金獲得に頭を悩ませなければならず、事業そのものに腰を据えて取り組むことができません。現場では、せめて5年あれば、という声が大きいのです。

一方、アメリカではNPOのローカル・ファンドが財団の助成金を獲得し、さらにそれを地域の就業支援NPOに配分する仕組みもできていたりして、日本と状況は違うのですが支援期間が短いという問題は共通しています。そうしたなか、最近、ボストンで5年間の助成を行うファンドNPOが登場しました。大変、希望のもてる試みとしてその動向を追っているところです。

ゼミの方針は?

3・4年次のゼミでは教育、政策、労働の分野の中からテーマを決めて、自分で調査を行って卒業論文を仕上げることを義務付けています。就職活動と両立させるため、ゼミがスタートする3年前期の6月に卒論のテーマを決め、調査の準備をスタートさせます。企業・自治体、学校、NPOなどさまざまな組織の人々への聞き取り調査が中心です。これを2月ごろまでに終わらせてしまって、しばらくは就職活動に全力投球。就職活動が一段落してからゼミ活動を再開して、卒論を書き上げる、というのが流れです。

普通は、まず専門分野の勉強をじっくりやって機が熟してから卒論に取りかかる、というのが順序だと思います。それを、あえて逆にしているのは、就職活動との両立を図るためだけではありません。先に目標を決めてしまうことで、自分に不足している知識は何かを自分で考えながら研究をやり抜くようになります。学生たちは、最初は大変だと感じるのですが、社会に出たらこれが当たり前です。試行錯誤して自分でやり抜く、この作法を、卒論研究を通して先取りしてマスターするのです。

研究者の道を決めたのは いつですか

私は、大学を卒業して銀行に就職しました。当時、職種や業種について深く考えたわけではありません。それより、入社してからどのように自分が仕事をしていくかが大事だと思っていました。銀行を選んだのは、就職活動で接したリクルーターと波長が合ったからです。しかし、実際に企業社会で働きはじめてみると違和感が生まれ、どんなに頑張って仕事をしても、その先に納得のいく自分の姿が描けないと感じるようになり、3年程で辞めてしまいました。特に進むべき道が見えていたわけではありません。勢いと直観で、「えいや!」と辞めた感じです。

大学院に進もうと決めたのは、そのちょっと後のことですね。研究者の道を決めたのもある意味直観で、「大した能力はないかもしれない。でも、心から納得してできる仕事はこれしかない」と感じたのでしょうね。その時その時全力投球してきた、そしていまここにいる、ということだと思います。

一本道ではなかったのですね

その通りです。学生時代は体育会の軟式テニス部に所属して、練習と試合に明け暮れる日々でした。就職した先は、クラブ活動とも学業とも無縁の世界でした。今、携わっているのも、会社員の時とはかなり方向性が異なる世界です。一つの目標に向かってキャリアを積んでいく、という進み方とはまったく違いますね。

学生たちは勉強と将来の仕事を直接、関係付けようとする傾向が強いようですが、現実は、そう単純ではありませんよね。学校で勉強したことがそのまま仕事のなかで役に立つことなど、まず、ありえないでしょう。そうした現実の中で、学生時代から生涯の目標を定めてブレずに歩いていける人というのは、ほとんどいないのではないでしょうか。一つの目標地点にたどり着いてみると、その先に思いがけない景色が見えてくる。そこで改めて、どこへ進むか目標を定めてぶつかっていく。未来の社会は実に多様であり得るわけで、だから人生は、シンプルに描いた設計図に沿って展開していけるものではない、と思います。

自分なりに、未来社会の多様なあり方を洞察しながら、将来の目標を設定することが大切だと学生に言うのですが、20代前半の若者には理解しにくいようです。山登りに例えて言うなら、今、麓から見えているのは最終的な目標地点ではなく、その先には別の世界があるのだ、ということを想定したうえで、登り続けていってほしいと思っています。