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国際文化学部 教授 岡村 民夫

2010年12月20日

プロフィール

国際文化学部 教授 岡村 民夫(おかむら・たみお)

1985年 立教大学文学部フランス文学科卒業。
1988年 立教大学大学院文学研究科フランス文学専攻修士課程修了。
1992年 スイス・ジュネーブ大学文学部一般言語学科中途退学。
1997年 立教大学大学院文学研究科フランス文学専攻博士課程単位取得満期退学。
1997年より 法政大学第一教養部専任講師。
2003年 法政大学国際文化学部教授となり、現在に至る。
2009年 著書『イーハトーブ温泉学』で宮沢賢治賞奨励賞を受賞。
近著は、2010年10月に刊行された『柳田国男、新渡戸稲造、宮沢賢治 エスペラントをめぐって』(共著)。
体育会空手部部長も務める。

フィールドワークを通して「場所」と「人間の創造行為」の接点を見出していきたい
映画に熱狂し、海外で「場所」の意義に気付いた学生時代

どのような研究をされているのですか

国際文化学部 教授 岡村 民夫

国際文化学部 教授 岡村 民夫

専門は表象文化論です。特に場所に着目して、(1)場所を重視して作品を創作している作家、映画監督、写真家などの研究、(2)造園、建築、都市計画など、場所自体を作り出す行為の研究をしています。作品の発想の源泉となった場所に直接出向くフィールドワークと、作品自体の分析との両面から、「場所」と「人間 の思想・創造行為」の接点を見出していくことが私の研究のスタイルです。

近年、力を入れていたのが宮沢賢治と温泉の関係の研究です。多くの地方作家が上京し、文壇の中で名を上げようとしていたのに対し、賢治は意図的に花巻に留まることを選択しました。東北の風景を「旅行者」 として見るのではなく「居住者」と して見ていました。しかも、盛岡高等農林で地質学を学んだ賢治は温泉地帯の地質調査や、温泉のボーリン グ掘削作業のアドバイスなどに携わ っています。宮沢文学は、場所の社会的意味、地質学的な特性、生態系などの理解の上に成立しているのです。そして、必ずしも現状を肯定するのではなく、既存の場所を改良していこうという志向が見られる点が興味深いところです。そうした賢治の想像力の基盤となった花巻の温泉文化を研究し、成果を著書『イーハトーブの温泉学』にまとめ、昨年宮沢賢治賞奨励賞を受賞しました。

現在は、これを発展させた研究にも取り組んでいます。夏目漱石、志賀直哉、川端康成など、数多くの有名作家が温泉地に長期間滞在し、執筆しています。温泉宿が書斎になると同時に、温泉地の風俗や風景が作 品の題材にもなっています。これは 「温泉大国・日本」の文学ならではの特徴といえるでしょう。けれども、これまで温泉と文学の関係が学術的、体系的に研究されたことはほとんどありませんでした。そこで、この研究に先駆的に携わることを決意しました。所属している「日本温泉文化研究会」で、来年1月に『温泉をよむ』(仮題)という新書を刊行予定です。私は「温泉の文学」の章を担当しています。

現在の研究テーマを選ばれたきっかけは?

フィールドワーク中(文京区菊坂付近)

フィールドワーク中(文京区菊坂付近)

もともとフィールドワークが好きだったんです。5歳の時、最初の趣味になったのが岩石採集でした。その延長で土器採集に熱中し、小学校3年生ごろから考古学者を夢見るようになりました。考古学者の藤森栄一氏と文通していたほどです。ところが、高校3年生になって、友人から勧められた小林秀雄の本に影響を 受け、小林が紹介しているフランスの文学者や哲学者について勉強したいという気持ちが生まれ、立教大学文学部フランス文学科に入学しました。

とはいえ、大学時代はフランス文 学一辺倒ではなく、さまざまな分野に興味を覚えました。「都市空間の中の文学」をテーマとする前田愛先生のゼミに所属し、フィールドワー クを重ねたことも、現在の研究姿勢につながっています。

また、蓮實重彦先生の「映画表現論」の授業にも刺激を受け、国籍、ジャンル・時代にこだわらず、浴びるように映画を見ました。特に熱狂したのが、ゴダールをはじめとする ヌーヴェルヴァーグです。まだビデ オが高価な時代で、「今回の上映を逃したら、いつ見られるか分からない」と、九州の映画祭まで出かけたこともあります。蓮實先生に勧められて、先生が編集長を務めていた映画雑誌『リュミエール』に書いた「『天空の城ラピュタ』の活劇=空間」 が、私の最初の論文になります。

このように、興味の範囲が多岐に渡っていたため、研究テーマを絞り込むことが難しく、悩んだこともあります。けれども、「場所」を焦点にこれまでの多様な興味を統合する道が開けたので、研究の広がりにもつながったと思います。

大学・大学院時代で思い出になっていることは?

今年の夏に花巻の鉛温泉で行ったゼミ合宿

今年の夏に花巻の鉛温泉で行ったゼミ合宿

大学院生の時、ニース大学に留学 したことです。ニースを選んだ理由のひとつは、フリードリヒ・ニーチェが滞在していたことがあるからです。ニーチェは、「ニーチェの散歩道」と名づけられた険しい山道を歩いている時に、『ツァラトゥストラ』 第三部のインスピレーションを得た と言っており、実際にツァラトゥストラが山道を歩くシーンがあります。 私もその散歩道をたどりながら、きわめて難解で観念的な文章が、実は 具体的な体験が基になっているという感触を得ました。それが場所論に着手する直接のきっかけになったのです。

2002年には、在外研究として1年間、パリを拠点に、改めてニーチェの足跡を訪ね歩きました。ニーチェがどのように住む場所や旅行先にこだわって、自分のライフスタイルを作り上げていったのかを考え、最初の単著『旅するニーチェ リゾー トの哲学』(2004)を書いて、その後の研究の方向性も定まりまし た。

学生たちに期待される ことは何ですか

最近の学生は、インターネットで 簡単に情報を入手することができるせいで、その情報だけで満足しがちな気がします。けれども、現地に出向き、人々と直接交流することでしかわからないことも少なくありません。せっかく海外旅行も気軽に行ける時代になっているのですから、ぜひ足を使って見聞を広めるといいと思います。

(雑誌「法政」2010年12月号より)