工学部 教授 間下 克哉

2009年04月20日

プロフィール

工学部 教授 間下 克哉

工学部 教授 間下 克哉
(ましも かつや)

1955年生まれ。
1977年東京教育大学理学部数学科卒業。
1982年筑波大学大学院数学研究科数学専攻博士課程単位取得満期修了。
同時に、筑波大学数学系助手として勤務。
1987年東京農工大学工学部講師。1989年同助教授、2000年同教授。
2008年より現職。
毎年11月に、新潟県湯沢町の湯沢グランドホテルで開催される「部分多様体論・湯沢xxxx」(xxxxは西暦)と題する研究集会の世話人を務めている。
主な著書に、『ベクトル解析の基礎・基本』(牧野書店)、『基礎演習シリーズ線型代数』(共著・裳華房)など。

「文化としての数学」と「専門としての数学」の両方を理工系の学生たちに伝えていきたい
考えるトレーニングとしての数学

なぜ数学者の道を目指したのですか

工学部 教授 間下 克哉

工学部 教授 間下 克哉

高校入学当時、日本人でノーベル賞を受賞していたのは、湯川秀樹、朝永振一郎という二人の物理学者だけでした。それで、物理をやりたいと考えていたのですが、高校に入って物理の授業が始まったとたんに落ちこぼれました。さらに、生物も化学も得意ではなく、消去法で数学科に進むことになりました。

研究者へのあこがれがあって大学院進学の希望を持っていたのですが、親の方は学部卒業で教員になって早く安心させて欲しいと思っていたようです。大学院進学について指導教官に相談したところ、返ってきた答えが、「うーん、数学をやって飢え死にしたという話は聞かないから、やりたかったらやれば」(笑)。この答えに妙に納得してしまって進学を決めました。大学院5年目の頃には、オーバードクターという言葉もよく耳にするようになっていて、研究者の道を諦めることも考えました。運良く、5年満了の直後に、出身大学の助手に採用され、大学の教員としてのスタートを切ることができました。

どんな研究をされているのですか

部分多様体論とその関連分野に関する研究を続けています。

球面を地球儀に見立てれば、何枚かの紙を張り合わせて作れることがわかります。球面のように、何枚かの紙を張り合わせてできる図形を2次元多様体といいます。3次元多様体や、もっと高い次元の多様体もあります。我々は、球面を3次元の空間の中に置いて見ています。2次元の図形である球面も、3次元の空間を使わないで理解する方が難しいのです。3次元空間の中の球面のように、高い次元の多様体の中に実現された多様体を部分多様体と言います。余談ですが、どんな多様体も十分に高い次元のユークリッド空間の中に長さも込めて実現できることを示したのが、映画「ビューティフル・マインド」のモデルとなったジョン・ナッシュです。

部分多様体を色々と変形した中で、最も体積が小さいものを探すことは幾何学の重要な問題です。この問題に関連して極小部分多様体というものが定義されます。大学院生の時から、極小部分多様体に特に興味をもって研究を続けてきました。

現在、取り組んでいる課題は二つあります。一つは、部分多様体の体積の最小性を示すための強力な道具であるキャリブレーションに関するものです。「キャリブレーション」は大砲などの口径をはかるという意味のアラビア語に起源をもつ単語で、工学でもよく使われます。

もう一つは、全測地的部分多様体の研究です。多様体の2点を結ぶ最短線を測地線といいます。部分多様体の上の測地線が、外側の多様体でも測地線であるとき、全測地的であるといいます。全測地的部分多様体は極小部分多様体になっています。リーマン対称空間という非常に良い性質をもつ多様体のクラスについて、2次元全測地的部分多様体の分類を目指して調べているところです。

授業ではどんなことを工夫していますか

大学教員になって以来、理工系の学生に数学を教えてきました。具体的には、「微分積分学」「線形代数学」「ベクトル解析」といった科目です。これらの教育内容は完成されていて、微分積分学などは100年も前に書かれた教科書を今でも使うことができるほどです。ですから「つまずきの石を取り除いてあげること」が講義のポイントになります。

大部分の理工系学生にとって、数学は、数学以外の専門を学ぶための基礎と考えられます。ツールとしての数学です。しかし、何千年もの間、人間の純粋な思考によって作り上げられてきた文化としての数学を忘れるべきではありません。

数学を学ぶ上で重要なことは定義と論証です。証明で悩んでいる学生に定義を聞いてみると答えられないことが殆どです。何をもとにして何を導くのか、といったことを常に考えることが重要です。そういう訓練を積んでいくことや、抽象化によって作り上げられた数学的な概念を理解することなどにも、数学を学ぶ意義があります。試験では、定義をきちんと理解していれば簡単に答えられるような問題を出すようにしています。いわば学生との“知恵比べ”です。

オフの時間はどのように使っていますか

数学の研究では、問題に関わる計算に「慣れる」ことも、ボーッと考えている時間も大切です。できる限りまとまった時間を確保する必要がありますが、学期中は時間だけが過ぎしまうといったこともあります。正直なところ、あまり時間の使い方が上手くないのです。

また、特に趣味といえるものもありません。音楽は、バッハやベートーベンを始めとしてクラシックのCDをよく聴いていますが、コンサートに足を運ぶということはしていません。料理をすることも嫌いではありませんが、必要に迫られてする程度です。鉄道も好きで、研究会などの出張の際に、時間があれば鈍行列車に乗ったりもします。これも、鉄道マニアの知人と話を合わせることができるという程度の、自称「小鉄っちゃん」といったところで、どれも趣味というにはおこがましいのです(笑)。

旅行には大抵、目的がありますが、法政大学の教授でもあった内田百閒は、鉄道に乗ることを目的とした鉄道旅行を好み「阿房列車」を書きました。私も阿房列車の旅をしてみたいと思うようになりましたが、数学の研究自体が、阿房列車のようなものなのかも知れません。

(雑誌「法政」2009年4月号より)