落語家 初音家 左吉さん

2019年07月09日

プロフィール

落語家 初音家 左吉さん

落語家 初音家 左吉さん

初音家 左吉 (Sakichi Hatsuneya)さん

1974年東京都生まれ。岩手リハビリテーション学院卒業後、2000年人間環境学部に入学。2004年に卒業後、初音家左橋(本学OB)に入門。2005年1月に前座、2008年3月二ツ目に昇進。2014年第2回うらわ落語選手権優勝。献血回数は計200回を超え、2010年日本赤十字社金色有功章を受章。

大学の授業で出合った落語 夢と初心を忘れず精進していきたい

着物にリーゼントというスタイルで高座に上がる初音家左吉(はつねや・さきち)さん。9月に「古今亭ぎん志(ここんていぎんし)」の名で真打ちに昇進することが決まり、応援してくださる方々に成長した姿を見ていただきたいと、日々稽古に励んでいます。

真打ちになって名前は変わっても落語との向き合い方は変わらない

踊りの稽古は落語家の修業に付き物で、舞台では獅子舞や高座舞も披露する(中央が左吉さん)

踊りの稽古は落語家の修業に付き物で、舞台では獅子舞や高座舞も披露する(中央が左吉さん)

今年の6月で、入門して丸15年を迎えます。二ツ目として、東京都内の演芸場で毎日催されている「定席(じょうせき)」をはじめとする寄席、各地のホールやカフェ、ギャラリーなどで開かれる落語会に出演しています。

よく「どうやって噺(はなし)を覚えるんですか」と聞かれますが、私の場合は、師匠や先輩から教えていただいたことをパソコンで入力、印刷して、自然に口から出てくるまで何度も繰り返し読んで頭に入れています。

古典落語であっても、教わったとおりに話せばいいというわけではなく、その日その日の持ち時間に合わせて、せりふを短くしたり、やりとりを省いたりします。師匠・初音家左橋からは「こまごま抜くんじゃなく、場面ごとスパッと抜いて縮める、そこがセンス」と言われますが、まだまだその域には達していません。

お客さんに笑ってもらえる、聞き入ってもらえるという手応えを感じられるのが一番ですが、受けないこともあります。落語には、普遍的な面白さや笑いがあるからこそ今に伝わっている。高座でやって受けないのは、自分が未熟だから。それを肝に銘じて毎回お客さまの前に出ています。

9月の真打ち昇進を機に、「古今亭ぎん志」と名を改めることになりました。初音家は、昭和の名人といわれる古今亭志ん生の一門。志ん生師匠が将棋好きだったため、「駒」や「馬」の付く名前が多く、私も「ぎん(銀)」を付けることになりました。昇進し、名前も変わりますが、師匠から学んだ落語との向き合い方を変えるつもりはありません。それでも、寄席でトリ(最後の出番)を務める真打ち昇進は、お世話になった方、応援してくださる方へ恩返しをするまたとない機会です。そして、これをきっかけに一人でも多くのお客さまに私の落語を聞いてもらえるように、二ツ目時代よりも積極的に活動の場を広げていかなくてはと考えています。

落語と自分をつないでくれた法政大学と安藤教授

授業の一環で、人間環境学部1周年記念で催された狂言の舞台組みに参加(後列右から2番目が左吉さん)

授業の一環で、人間環境学部1周年記念で催された狂言の舞台組みに参加(後列右から2番目が左吉さん)

中学のとき、祖父が病後にリハビリテーションをする姿を見て、理学療法士に興味を持ちました。当時はまだ養成校が少なく、岩手の学校で4年間学び、理学療法士の資格を取得しました。

病院に就職し、さまざまな年齢や職業の患者さんに日々接する中で、相手の話が理解できないことも多く、「もっと世の中のことを知りたい」と思うようになりました。ちょうどその頃、法政大学に夜間も開講する学部が新設されたと耳にし、社会人入試で人間環境学部2期生として入学しました。

その頃は半期のゼミもあって、いくつものゼミに参加しました。特に覚えているのが、フランス文学者・安藤俊次教授の「日本の古典芸能」の授業です。初めて寄席に行ってみたのも、師匠に出会ったのも、この授業がきっかけでした。

学部の友人に誘われて、サークル「落語研究会」にも入会。人数が足りないというので名前だけ貸すはずが、いつの間にか法政祭で落語をやる羽目になって、次第に落語が身近な存在になっていきました。

学生時代は多忙のひと言で、朝から夕方まで老人ホームで仕事、夜と仕事が休みの日は大学の授業やサークルと、充実しながらも大変でした。それでも今思うと、4年間で卒業できた達成感は大きいもので、やればできるという自信が付きました。

人生にはたくさんの道があるそして夢もある

理学療法士の仕事を辞めて新しい世界に飛び込めたのは、「自由と進歩」の中で鍛えられた法政魂のおかげという気がします。「夢がかなうとは思うな」と言う大人も多いですが、私は、やはり夢はあると思いたいし、皆さんにも夢を見てほしいです。

人生にはいろいろな道があります。世襲制と思われている歌舞伎俳優や文楽の人形遣いでも公に開かれた養成機関がありますし、あまり知られていない職業、世界もたくさんあります。漠然と就職活動をする前に、積極的に出掛けて、人に会い、新しい発見を積み重ね、自分に合う選択肢を増やしてほしいと思います。

落語家にとって、真打ち昇進はスタートライン。この15年間はあっという間でしたが、脳裏に焼き付いているのは、入門して1カ月目に芸名を付けていただいたとき、そして前座になって初めてお客さんの前で落語を演じたときのことです。落語家になりたいという夢と入門時の初心を忘れずに、これからも精進を重ねて、師匠のように明るくて楽しい高座を務められる落語家になりたいと思います。

真打ち披露興行の日程などはウェブサイトに掲載予定

(初出:広報誌『法政』2019年5月号)