和菓子職人 窪田 早紀さん

2012年07月17日

プロフィール

和菓子職人 窪田 早紀さん

和菓子職人 窪田 早紀さん

1980年静岡生まれ。人間環境学部で学んだ後、和菓子店の営業職に就職。
3年間働いた後退社し、和菓子の専門学校へ通う。2008年より「塩野」に和菓子職人として勤務。

日本の伝統と美が凝縮された和菓子で自分の感性を表現したい

戦後、東京の赤坂で開業した和菓子の名店「塩野」。その調理場に立ち、四季折々の和菓子を作っているのが窪田早紀さんです。自らの感性を和菓子で表現すべく日々腕を磨いています。

幼少時代から伝統的なものに引かれた

120年余りの伝統を持つ靖国神社の能舞台で踊りを披露した

120年余りの伝統を持つ靖国神社の能舞台で踊りを披露した

私は子どもの頃から染物や和菓子など、日本の伝統的なものに興味がありました。和菓子の魅力に気付いたのは中学校の修学旅行の時。京都を訪れた際に一軒の和菓子屋さんに入ったのですが、そこで目にした美しい和菓子に心を奪われました。「こんなすてきなものを私も作ることができたらいいな」と思ったのですが、当時は和菓子職人になる手段も分からず、ただ憧れだけが心に残りました。

その後、高校を卒業して法政大学に入学。花が好きな父の影響を受け、昔から花や草木が好きだったので自然について学べる人間環境学部を選びました。大学では幅広い視点から自然や地球環境などについて理解を深める講義に刺激を受け、植物に関する知識がさらに増えていきました。また、自分と同じような趣味を持つ友人をつくることもでき、今でも顔を合わせればマニアックな植物の話で盛り上がっています(笑)。一方、在学中も伝統的なものが好きなところは変わらず、4年間を通して能楽研究会に所属していました。4年次には市ケ谷キャンパスのすぐ隣にある靖国神社の能舞台に立つという貴重な経験もでき、最高の思い出になりました。

就職先を考えるときも“和”の魅力がある仕事に絞って就職活動をして、ある和菓子店に就職しました。ただし職人としてではなく、営業担当としてです。そのお店には3年間勤めましたが、中学生の時に抱いた和菓子職人への憧れは心の中でくすぶり続けていました。「やはり自分の手で和菓子を作りたい!」。その思いが抑えきれなくなったとき、気付けば会社を辞めて和菓子制作の専門学校に通っていました。

和菓子の名店「塩野」と運命の出会い

4月に店頭に並んだ生菓子の中でも、特に人気の高かった「花衣」。塩野ではベテランと若手の職人が組んで菓子作りを行っている

4月に店頭に並んだ生菓子の中でも、特に人気の高かった「花衣」。塩野ではベテランと若手の職人が組んで菓子作りを行っている

専門学校では和菓子作りの基礎を学びました。授業の多くは実技で、初めての和菓子作りに日々没頭していました。授業は夜間だったので昼間はアルバイトです。大学時代の能楽研究会のつながりで、靖国神社にある博物館受付の仕事に就くことができたのはありがたかったです。学校もバイトも楽しく、毎日が充実していました。

専門学校は2年間で卒業し、ようやく和菓子職人として働く下地ができました。専門学校時代からいろいろな和菓子店の情報を調べていましたが、私が面接を受けたのは、今働いている「塩野」だけです。

「塩野」の和菓子には洗練された美しさがあります。桜や青梅、紅葉など、四季折々の自然をモチーフとした彩り豊かな和菓子の数々は、私が中学生のときに憧れた和菓子そのもの。また、幼い頃から私を引きつける「伝統」と「植物」という2つの要素がつながっている存在にも思えました。

「塩野」で働き始めてから今年で5年目になりますが、今でも時々、この店の調理場にいることを夢のように感じることがあります。

時間をかけて自分の気持ちと向き合おう

和菓子職人 窪田 早紀さん

晴れて憧れの職場で働けることになったわけですが、最初は苦労の連続でした。

和菓子職人の朝は早く、午前6時には調理場に立って生菓子などの仕込みをしなければいけません。餡をこねるなど力仕事もあり、自分が想像していたよりも大変な仕事でした。さらに生菓子にこだわりを持っている「塩野」では、あんこだけでも10種類以上を使い分けていて覚えるのに苦労しました。ただ最近ようやく仕事にも少し慣れてきて、周りを見る余裕が出てきました。

仕事できついときがあっても私ががんばり続けることができたのは、「塩野」の和菓子が心から好きだったからだと思います。「塩野」では毎月、季節に合った菓子を10種類ほど作っています。4月なら花衣(はなごろも)、杜若(かきつばた)、惜春(せきしゅん)といった菓子が店に並ぶのですが、その名前を目にするだけで、作り手が自然や草花を愛でながら菓子作りに励んでいることが伝わってきます。そんなすてきな和菓子を作り出す空間は、私にとってやはり居心地のいい場所なのです。

私自身は和菓子職人としてはまだ駆け出し。先輩たちの技を見ながら日々勉強しつつ、「自分ならこんな和菓子が作りたい」とイメージを膨らませています。和菓子作りの魅力は自分の感性をそのまま表現できることです。私の場合、大学時代に学んだ植物に関する知識を和菓子の色合いや形を考えるときに一つのヒントにしています。その部分を生かしつつ、一流の和菓子職人を目指したいですね。

大学を卒業した後に専門学校に入り直した私は、他の人から見ると回り道をしているように思われるかもしれません。でも、大学を卒業してすぐに自分の天職が見つかる人ばかりではない気がします。学生の皆さんも、将来の選択を焦りすぎないでほしいと思います。大学で学んだことは、仕事の現場できっと生かせるはず。将来に備えて大学での勉強を積み重ね、自分の正直な気持ちと向き合いながら、やりたいことを見つけてください。