人生、言葉、文化、自らのアイデンティティーが投影された小説集「来福の家」を執筆

2011年05月16日

プロフィール

作家 温 又柔さん

作家 温 又柔さん

作家 温 又柔(おん・ゆうじゅう)さん

1980年 台湾台北市生まれ。
2003年 国際文化学部国際文化学科卒業(一期生)。
2006年 大学院修士課程国際文化専攻修了。
3歳で来日。両親は台湾語を母国語とし、台湾語や中国語、日本語の飛び交う家庭環境で育つ。
小説家として、自身の体験を投影させた小説「好去好来歌」を執筆。
2009年すばる文学賞佳作に選ばれデビュ-した。
2011年1月に小説集「来福の家」を刊行。
すばる3月号には新作である「母のくに」が掲載された。

作家 温 又柔さん

作家 温 又柔さん

台湾生まれの作家・温(おん)さんは、台湾語や中国語、日本語が飛び交う家庭環境に育ちました。言葉をめぐる温さん自身の体験、思いを投影させた初の小説「好去好来歌」が2009年すばる文学賞佳作に選ばれ念願の作家デビューを果たしました。

「何かを文章で表現したい!」と思い、大学時代より小説家を目指す

国際文化学部の卒業式でS.A.上海の仲間と

国際文化学部の卒業式でS.A.上海の仲間と

――国際文化学部では創作のゼミに参加。大学院では、自らのアイデンティティーを振り返る小説を書き始めました。

大学3年生のとき、川村湊先生の創作ゼミに入りました。もともと書いてみたい気持ちが強かったのでゼミでは小説を書いていました。ゼミの友人に誘われて演劇のグループに参加したこともあります。私は芝居の原作を担当しました。役者、演出、舞台美術などを志望する方たちとの共同作業はとても刺激的でした。その頃の友人とは今も親しく付き合っています。大学院ではリービ英雄先生のゼミで「越境」をテーマとした文学作品を夢中になって読みました。それがきっかけで、原点に戻って自身のルーツである台湾、華僑であることについての小説を書いてみたいと思うようになりました。司修先生のもとで習作を重ねましたがなかなかうまく行かず「自分自身ときちんと距離をとりなさい」とよく叱られました。その言葉は今でも肝に銘じています。

2010年1月中国の北京天安門広場で、リ-ビ英雄教授と記念撮影

2010年1月中国の北京天安門広場で、リ-ビ英雄教授と記念撮影

大学時代の一番の思い出は、友人たちと経験した上海留学です。国際文化学部には、S・A・(スタディ・アブロード)プログラムが義務付けられており、私は上海外国語大学で留学を体験しました。私の出身地である台湾と上海では、同じ中国語でもニュアンスや使用漢字が違います。中国語の多様性に改めて気付き、中国語、中国社会、華人文化に興味をもつきっかけとなりました。

私たちは国際文化学部の一期生だったということもあり、何かを自分自身でつくり出していこう! という積極的な学生が多く、お互いに影響を受けあいながら充実した学生生活を送ることができました。こういった経験も、小説を書く意欲につながっているのかもしれません。

大学院修了後は子供たちに日本語を教える仕事を経験

司修教授と。中央は司ゼミで知り合い結婚した小平裕介氏

司修教授と。中央は司ゼミで知り合い結婚した小平裕介氏

――「来福の家」の主人公笑笑の姉・歓歓と同じく、日本語を母国語としない来日したばかりの子供たちに日本語を教える仕事を経験しました。

子供たちは、日本語を自分の言葉としてつかもうと必死になっている。異言語でサバイバルしているんです。その姿が、小説を書くための言葉をつかもうとしている自分と重なりました。

こういった経験をもとに、日本に住む台湾人の少女を主人公にした小説「好去好来歌」を書き上げました。3つの言語を行き来する自分自身の体験を投影した作品です。2010年に二作目の「来福の家」を発表。この作品も、華僑としてのアイデンティティーを問う作品として描いています。この二作を一冊にまとめた「来福の家」を2011年1月に集英社より刊行し、大学時代から夢であった小説家へと一歩踏み出すことができました。

これからも意欲的に作品を執筆

2011 年1 月に集英社より刊行された小説集「来福の家」。自身の思いが投影された大切な作品。

2011 年1 月に集英社より刊行された小説集「来福の家」。自身の思いが投影された大切な作品。

――これからも自分のルーツと向き合った作品に取り組みたいと考えています。

すばる3月号に、第三作目である「母のくに」を発表しました。これからも東アジアを舞台にした小説執筆に取り組んでいきたいと考えています。

大学時代に得たもの

――さまざまな出会い、経験が今の自分につながっていると語る温さん。

法政大学へは大学院を含めて8年間も通いました。大学の雰囲気や環境が私に合っていたのでしょうね。気が付くとずいぶん長く通ってしまいました。在学中は、同人誌制作に携わったことなど楽しい思い出ばかりです。留学経験や敬愛する先生方との出会いは、自分のアイデンティティーについて深く考えるきっかけとなり、大学で得た経験が今の自分につながっています。

法政大学は、決して押し付けることのない自由な大学です。考える余地をもらえる、考える楽しみを持てる自由な環境の中で、学生の皆さんには、何かを見つけてほしいですね。