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化学で探る色彩の謎~トマトはなぜ赤いのか?~
生命科学部環境応用化学科 高井和之准教授

2015年10月16日

ありふれた元素を使って、豊かで快適な生活を実現する画期的な物質を作る!

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物質を細かく分解していくと、最後はすべて原子に行き着きます。原子は原子核と電子から成り、共有結合、イオン結合、金属結合などの化学結合によって原子同士が結合して物質を構成しています。物質の性質はこの原子同士の結合の仕方によって決定されます。

そこで、生命科学部環境応用化学科物理化学分野の高井和之准教授の公開授業では、身近な物質を使った簡単な分光測定の実験とコンピューターシミュレーションを通して、原子同士が結合した分子の形と性質との関係について学ぶ授業が行われました。

高井准教授がプログラムで取り上げた物質は、シアニンと呼ばれる炭素をベースとした合成染料です。

分子の長さによって見える色が違うシアニン染料の吸収スペクトル測定を行う高校生たち

分子の長さによって見える色が違うシアニン染料の吸収スペクトル測定を行う高校生たち

シアニンは“共役鎖”と呼ばれる構造の共有結合を多数持っていて、共役鎖の長さに応じて、赤外光から可視光、紫外光まで幅広い波長の光(スペクトル)を吸収します。授業ではまず、物質の色は物質がどのような波長の光を吸収するかによって決まること、また、どのような波長の光を吸収するかは、物質を構成する原子同士の結合の仕方によって決まることを勉強しました。そのうえで、高井准教授が用意した黄色、赤色、青色、水色の4種類のシアニン染料を吸収スペクトルを測定する装置にかけて、それぞれどの波長の光を吸収しているかを確認しました。

次に、コンピューター教室に移動し、研究の第一線で実際に使用されている分子シミュレーションプログラムを使ってシアニン染料をシミュレーションし、シアニン染料の分子構造や電子軌道を3次元画像で確認しました。

実際に測定した分子の構造や性質をコンピューターシミュレーションで確かめる

実際に測定した分子の構造や性質をコンピューターシミュレーションで確かめる

このように、高井和之准教授の専門分野は、炭素などの軽元素物質の性質を明らかにする物性物理化学で、理論に基づき新たな物質・材料を実際に合成し、望みの性質を引き出す研究をしています。

「しかも、単なる新物質ではありません。目指しているのは、地球環境への負荷を抑えつつ、私たちがこれからも豊かで快適な“持続可能社会”を築いていくために不可欠な、省エネルギーかつ省資源を実現する、これまでにない画期的な物質です」と高井准教授。

近年、二酸化炭素の排出量を減らすため、石炭火力発電やガソリン車に替わり、自然エネルギーや電気自動車の利用が推進されています。しかしながら、実は、自然エネルギーや電気自動車に置き換えれば、すべての問題が解決するわけではありません。高性能な太陽電池や電気自動車の開発には、レアメタルやレアアースと呼ばれる物質が不可欠です。ところが、レアメタルやレアアースの使用は、資源開発による新たな環境負荷をもたらしますし、資源枯渇も心配です。そこで、高井准教授は、炭素や酸素、窒素など地球上に大量に存在するありふれた元素を使って、「低エネルギー消費」「低資源消費」「低環境負荷」の3つを実現する新たな物質の研究を行っているのです。

「私の研室では、『電気伝導性』『磁性』『反応性』という3つの物質の性質に焦点を当てて、研究を進めています」と高井先生は語ります。電気伝導性とは電気をどれくらいよく通すか。磁性とは磁石としての性質。そして、反応性とは物質と物質との化学反応を助ける触媒としての性質のことです。

たとえば、皆さんは、2010年にノーベル物理学賞を受賞し、一躍有名になった「グラフェン」という物質をご存知でしょうか。これは原子1個分の厚みしかないシート状の炭素分子のことです。グラフェンが注目を集めているのは、電気伝導性が非常に高いこと。現在、コンピュータの素子はシリコンで出来ていて、その配線には銅が使われています。しかし、シリコンの素子はこれ以上消費電力を抑えることが難しく、銅は貴重で資源に限りがあります。このコンピュータの素子の材料を炭素のみでできたグラフェンで置き換えることができれば、省エネルギーや省資源につながります。

そのため、高井准教授の研究室では、グラフェンを基にしたコンピュータ素子や電池材料の研究開発を行っているほか、通常は磁石としての性質を示さない炭素とカリウムを、ナノメートル(ナノは10億分の1)という極小のサイズにしてうまく組み合わせることで、磁石を作ることにも成功しています。また、物質を合成する化学反応を媒介する触媒に関しては、これまでは有害な元素や貴重な元素が数多く使われてきましたが、それらを環境にやさしい軽元素化合物に置き換えるべく、新物質の開発に挑戦しています。

「物質にはまだまだ分かっていないことがたくさんあります。そのため、物質に関する研究の醍醐味は、研究を始めたばかりの学生であっても、世紀の大発見や大発明ができる可能性を持っていること。持続可能な社会の実現に向け、是非、一緒に画期的な物質を開発しましょう」。高井准教授はこう語ります。