平和への誓い

2014年01月16日

 法政大学は、戦前期から、哲学者三木清・戸坂潤に象徴される自由で進歩的な校風を誇りとしていましたが、戦時下にあっては時流に対してむしろ進んで戦争協力に走った暗い歴史があります。大川周明を部長として植民地政策の尖兵を育てようとする「大陸部」(専門部)を設置したこととともに、少なくとも2480名にものぼる前途ある若者に学業の道を断念させて命を捧げる覚悟を強いて戦地に送ったことは、本学の歴史のなかでもっとも深く大きな傷跡として記憶されています。

 自らも学徒兵として戦地に赴いた経験を持つ阿利莫二元総長は、1990年3月と1991年3月の学位授与式で学徒兵として戦没された方々に卒業証を授与しました。その際に、学徒出陣を「痛恨の極み」とし、「大学として責任を果たす」と述べています。

 あらためて考えると「大学として責任を果たす」とはどのようなことでしょうか。それは学問を通じて世界の平和と未来に貢献するとともに、その担い手を育成することを使命とする高等教育機関として、そしてもとより過去に多くの学生たちの青春を奪い、尊い犠牲を強いた当事者としての責任です。

 教育機関として大学がなすべきことは、学業なかばに戦場に散ることを使命と信じて出征せざるをえなかった先輩たちの無念、戦地で落命した友への筆舌に尽くしがたい想いを抱えて人生を送ってこられた先輩たちの苦悩が、けっして他人事ではないということをしっかりと学生たちに伝え、また広く社会に訴えてゆくことです。そして大学は当事者として、過去の事実を少しでも明らかにするとともに、二度と過ちをくり返さないために、なぜその誤った道に進んでしまったのかを見つめ直すことだと思います。

 戦後の本学を大いなる発展へと導いた大内兵衛元総長が「われらの願い」として掲げた3ヶ条に「わが国の独立を負担するに足る自信ある独立自由な人格」の育成、「学問を通じて世界のヒューマニティの昂揚に役だつ精神」の振興があります。それらの願いは時代に流され、自由な思考を停止して他国の人びとに危害を加え自国民に犠牲を強いる戦争へと荷担した歴史への反省もふまえてつくられたものだったと忖度します。本学が現在掲げているミッション「自立的で人間力豊かなリーダーの育成」もまたその延長上にある教育理念です。

 グローバル化によって、かつて軍国日本が侵略の対象として虐げた国々からの学生や教職員が同じキャンパスでともに学究に向かう今日、その暗い歴史から目を背けることなく、しっかりと向き合うことの重要性は戦後68年たってなお少しも減じていません。若者に過酷な道を歩ませた責任の重みを忘れることなく、この悲劇をもたらしたものをしっかりと見つめることは、本学の教育理念達成のために欠かせないことです。学徒出陣70年の節目の年にあたり、その弛まぬ努力が平和な世界の実現につながることを願って「平和への誓い」とします。

2013年12月16日

法政大学総長 増田壽男