法政大学について

2005年度3月号 雑誌「法政」

【座談会】産学連携によって地域経済を支える人材育成を―日本商工会議所との連携でキャリアアップを支援―

篠原徹 日本商工会議所常務理事
永井進 法政大学常務理事・地域研究センター長・経済学部教授
司会
川喜多喬 法政大学キャリアセンター長・キャリアデザイン学部教授

地方のニーズと就業支援

■川喜多 昨年12月に日本商工会議所と法政大学が締結した「キャリアアップ支援モデル事業」という画期的な協定は、新聞その他で報道され、大きな反響を呼びました。最初に、今回の提携の趣旨について、日本商工会議所の基本的な考え方をお話しいただければと思います。
●篠原 日本商工会議所は地域総合経済団体である商工会議所の連合体です。全国各都市に523の商工会議所があり、所属する約150万事業所の95%が中小企業です。私どもの事業活動の中心である地域および地域経済を支えている中小企業の活性化、地域の振興、まちづくりの観点からも地域における人材供給はますます重要であり、やはり日本経済を支えているのは人であるということから、人材教育を大きな使命のひとつにしています。
これまで日本商工会議所は、3つの基本的な視点から人材育成に取り組んできました。ひとつは雇用のミスマッチの解消。2つ目が地方の企業への優秀な人材の供給。3つ目が、学生を中心に就業能力の向上・強化を図るという点です。
今回、私どもは、産学連携が求められている状況に照らして、いかに地方に優秀な人材を還流させるかという点に着目し、大学とのタイアップで、地方の産業界、地方のニーズに対応した学生のキャリアアップや就業支援ができるのではないかと考えました。法政大学をはじめとする東京の大学と、全国523の地方都市を結ぶネットワークを持つ日本商工会議所が連携することによって、地方の優秀な学生が東京で学んだ後、優秀な人材として地方で採用され、活用される。一方、地方の会員企業にとっては、後継者子弟を安心して東京で勉強させられるということにもなるわけです。
その協働モデルの第1号として法政大学との協定が締結できたことは、地方の商工会議所からも大変高い評価をいただいています。今後は、できるだけ早い時期に、具体的な活動を一歩一歩進めていきたいと考えています。
■川喜多 では、法政大学はどういう意図でこの協定に参加したのでしょうか。
●永井 本学では昨年4月、就職部をキャリアセンターに改組しました。キャリアセンターは、従来の就職支援の他に、大学入学直後から学生のキャリア形成も支援することになります。日本商工会議所は各種資格講座、就職支援セミナー、あるいは検定試験制度などのスキームを持ち、私どもの就職支援およびキャリア形成支援に非常に有効な材料を提供していただけることから、ぜひ協力して学生のキャリアアップに取り組んでいきたいというのが第一点です。
現在、本学の学生の約3割が地方出身ですが、UターンやIターンして地方で就職する学生の比率は、2004年度の就職内定者の17.6%、約6人に1人となっています。少子化でもあり、地方出身の学生には、ご両親の方に戻ってきてほしいというご意向があります。地方の企業も人材を望んでいますから、大学としても、UターンやIターンを勧めたいわけですが、情報不足は否めません。そのミスマッチを何とか解消できないものかと考えていたところ、商工会議所が全国組織で地方での人材育成の視点から、インターンシップの学生を受け入れる企業をご紹介いただけるという、これも大変ありがたいお申し出があり、この面でも、ぜひ協力していきたいと思っているわけです。

■川喜多 商工会議所で今、取り組んでおられる人材育成の工夫や支援策とは?
●篠原 私どもは、小学生からシルバーエイジの方まで、すべてのライフステージにわたって企業への人材育成・人材供給をレベルアップするためのいろいろな活動を行っています。特に近年では、創業塾という起業家を目指す人たちの集中講座を、政府の予算措置をいただき全国百ケ所の商工会議所で毎年行っています。また、すでに経営者になられている方、その子弟を対象にした第二創業塾を全国百ケ所で実施しています。
これからどしどし踏み込んでいきたいことは、大学などとの協働事業によって、専門学校生・大学生に対する企業が求めている人材にマッチした就業支援教育です。少子化によって就業人口が減る一方、若年者のフリーター・ニートをはじめとした無就業者が増えているというのは、社会的に由々しき問題であると我々も思っており、政府のニート・フリーター対策の一環として、地方によってはジョブカフェなどの事業を手がけています。昨今、商工会議所も人材育成面でやるべき範囲が非常に広がっているというのが現状です。

■川喜多 経済団体も教育機能を強める中、本学では、どういった考えの下で人材育成に取り組んでいるのでしょうか。
●永井 まず、新しい学部をつくって、即戦力となる人材を育成することにより、ともすると企業と大学との間にある不幸なミスマッチを防ぎたい。同時に、学生の基礎学力を養成することはもちろん、社会力を身につけるために、プレゼンテーション能力や社会人としてのマナー習得等の形成支援プログラムを大学全体で取り入れ、学生にしっかりした職業観を持ってもらいたいと考えています。
また、情報、語学、簿記といった励みがいのある検定試験を受けたいという学生の要望に対して、授業の中に位置付けて単位が取得できるといった工夫も必要だろうと考えているところです。
●篠原 最近では、大卒者の約3割が一定期間に就職先からドロップアウトすると聞いています。大学教育の中で、自分がどういう分野で職業人として生きたいかということを卒業までにちゃんと植え付けていただき、その上で企業の側も、大学の側も、学生の側も、就職に当たってミスマッチが起きないような努力を、もっともっとやらなければいけないと思います。
●永井 自ら社会の仕組みを知る体験をしながら、できるだけ早く職業倫理を確立することが必要ですね。大学でも、現場で活躍されている方や専門家のお話を聞くと同時に、職場体験のインターンシップを重視しています。キャリアデザイン学部ではもちろん、昨年、経済学部に新設された現代ビジネス学科でも、インターンシップを含めて、積極的に取り組んでいこうという方向です。地方でのインターンシップで、商工会議所と協力して、ミスマッチの解消に努めたいですね。
●篠原 そうしたコラボレーションを、全国的に展開できればと思っています。

地域を活性させる人材育成

■川喜多 永井常務理事はキャリアセンター担当理事であると同時に、地域研究センターの所長も兼任なさっていますね。
●永井 本学の地域研究センターは、まちづくりや地域の活性化のためにいろいろな政策提言をしたり、全国各地でまちづくりシンポジウムを行ったりしています。また現在、文科省の補助金を得て、学生が台東区で中小企業の活性化の調査や経営相談に取り組んでいますが、今後は、商工会議所と何かいっしょにできることがあるのではないかと考えています。
●篠原 私どもは今、地域の再生や活性化といったまちづくり問題に本格的に取り組んでいます。実は、欧米に比べて、まだまだ日本では、まちづくりの専門家が不足しています。お願いしたい第一点は、地域研究センターで、ぜひそういう人材を輩出していただきたいということ。第二点は、これから全国各地で行う中心市街地活性化についての新しい計画作りに、ぜひお力添えや、いろいろなアドバイスをいただきたいということです。まさしく産学のコラボレーションを、実際の動きの中で組み合わせていただくように我々もお願いしたいし、大学でそういうプロジェクトを立ち上げていただくと大変ありがたいと思っています。
清成忠男前総長のご功績もあるでしょうが、全国の大学の中でも、法政大学は中小企業政策論や比較中小企業論に非常に優れた実績を持っておられます。そうした背景を十分考えた上で、ぜひその特色を発揮していただきたいと考え、今回、提携のトップバッターとさせていただきました。
●永井 例えば、本学専門職大学院のイノベーション・マネジメント専攻は、社会人対象の1年制ビジネススクールですが、中小企業の経営革新プログラムのコースがあります。ここには、できるだけ地方の中小企業の若手経営者もお招きしたいのですが、商工会議所を通して、先ほどの第二創業塾などからご推薦いただき、ぜひ数人の特別推薦入学者を受け入れたいと考えています。
また、イノベーション・マネジメント専攻では今、いろいろな授業のコンテンツをインターネットで配信していますので、地方でも中小企業の経営革新プログラム等について受講可能な方向に持っていきたい。地方の中小企業のイノベーションに貢献していきたいと思っているところです。
●篠原 わかりました。私どもの創業塾、第二創業塾についても、平成18年度から法政大学とタイアップして、キャンパスで冠講座が実践できるように計画を進めていきたいと思っています。
●永井 また、大学院だけでなく学部でも、まちづくりや地方の企業経営に関心のある学生を全国から受け入れたいと考えています。実際に、まちづくりがひとつの大きなコンセプトになっている現代福祉学部では、全国の地方自治体からの推薦枠を設け、卒業後は地方に戻ってもらうというような試みも実施しています。今後、地方の商工会議所からご推薦いただいた学生を何人か各学部で受け入れていこうということで、今、その仕組みづくりを行っているところです。
●篠原 私どもも協力しますので、ぜひ進めていただきたいと思います。
●永井 伝統校である本学は、全国に37〜38万人の卒業生がいますが、やはり自分の故郷に新しい卒業生が戻ってきてほしいという期待も多い。我々も、各地の校友連合会という卒業生組織とタイアップして、地方で就職説明会を行うなど、つながりを持っていきたいと思っています。今、地方自治体などは、地方の大学の卒業生に対して地方の企業をできるだけ紹介するということを結構やっていますね。

■川喜多 本学でも、全国の自治体に呼びかけてJターン、Uターンのためのフェアを実施したいと考えていますが、ぜひ商工会議所に窓口になっていただければ…。
●篠原 我々もねらいは同じですから、各自治体とタイアップすることによって相乗効果を出していければと思っています。

■川喜多 最後に、それぞれの今後の抱負や期待をお願いします。
●篠原 資源やエネルギーに乏しい日本は、やはり人材が基本であり、優秀な人材で、世界に競争力のあるいろいろなものをつくって、それを輸出することによって外貨を稼ぎ、それで原材料やエネルギーや食糧を買ったりして経済を循環させないと生きていけない。ですから、人材教育こそ国の基本であるということが、将来、少子高齢化が進めば進むほど重要になると考えます。
また、企業も含めて我々経済団体も地域社会も、日本全体で小さい時から人材を教育していくという方向に改めないと、国際競争に勝てない時代です。そういう意味でも、ますますこの事業が重要であると考えています。ぜひ今回の法政大学とのプロジェクトを成功させ、進化させ、それをまた横に広げていきたいと思っています。
●永井 人口が減少するこれからの社会では、高度な知識を社会の基盤にしていかなくてはならないということからも、大学に課せられた人づくりの仕事は非常に重要だと自覚しています。その中で、知識のみならず、自立できる人格の形成が我々の役割であると同時に、地域研究センターやキャリアデザイン学部等の教員を、地域や中高等学校等に派遣したりして、社会に開かれた貢献ができるような体制をとっていきたいと思っています。
■川喜多 本日は、どうもありがとうございました。


篠原 徹(しのはら・とおる)
日商常務理事
1946年徳島県生まれ。東京大学法学部卒業後、通商産業省入省。通商政策局北アジア課長、資源エネルギー庁公益事業部原子力発電課長、中小企業庁計画 部金融課長、愛知県商工部長、環境立地局総務課長、中小企業庁小規模企業部長、資源エネルギー庁石炭・新エネルギー部長を歴任。
1998年日本商工会議所常務理事

永井 進(ながい・すすむ)
常務理事
1944年東京生まれ。東京外国語大学ドイツ語学科卒業後、一橋大学大学院経済学研究課博士課程を経て、1972年本学経済学部助手に着任。同助教授を経て、1981年同教授。
2002年同多摩図書館長。2004年同図書館長。2005年同理事・常務理事、地域研究センター長(兼任)。専攻は理論経済学。

川喜多 喬(かわきた・たかし)
教授(司会)
1948年大阪府生まれ。東京大学大学院社会科学研究科博士課程を経て、茨城大学専任講師、同助教授、東京外国語大学助教授。1990年本学経営学部教 授に着任。2003年同キャリアデザイン学部教授。2005年同キャリアセンター長(兼任)。
日本キャリアデザイン学会理事兼事務局長。専攻は人材育成論、経営組織論。

 

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