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2019年9月卒業 学位記交付式 総長告辞

2019年09月14日

学位記交付式 告辞

皆様、卒業おめでとうございます。保護者の皆様にも、心よりお祝い申し上げます。

9月に学位を受ける皆さんは、おそらく在学中に様々な実践をしてきた方々だ、と想像しています。大学で過ごす時間について、いま使われはじめている言葉があります。それは「学修経験時間」です。科目を履修し学んだ時間と、大学におけるそのほか様々な、成長につながった時間を総称した言葉です。

科目を履修して単位を取る。そのなかにもちろん主体的学びや実践があったと思います。知識を授けられるだけではなく、自ら調査し、文献を読み、データを整理し、フィールドワークをおこない、教師に相談し、まとめ、発表し、議論する、そして論文を仕上げる、などです。ひとつのテーマに集中して自分の力で考え、論理的に整理して文章にする経験は、社会に出てからはなかなかできることではありません。これらは学修でもありますが、そのひとつひとつが、生涯の様々な場面で役立つ大きな経験なのです。

私自身も、学生として入学したこの法政大学で、文献を読みこみ、発表し、自分で考える面白さを知りました。社会で活躍する著名な先生方が多く、そうした先生方から刺激を受け、たくさんものを書いていました。50年前の法政大学でもフィールドワークをおこない、チームでデータをまとめ、それを発表するという授業がありました。ゼミではもちろん、個々の学生が自分でテーマを選び、それを探求して発表していました。かつての大学は大教室の講義ばかりだったという人もいます。しかし私の経験はそうではありません。少人数授業もあり、ゼミもあり、この法政大学で、学びたいことを存分に学び、考えたいことをとことん考えることができたのです。フランス語の授業もたいへん面白く、私は法政大学に入って初めて、「外国語を学ぶことの面白さ」を知りました。さらに深く学ぶために、大学に通いながらフランス語の学校にも通っていました。当時の4年制大学進学率は約17%で、女性は極めて低く、6.5%でした。現在の4年制大学進学率は約50%です。そして、日本の大学生の約80%が私立大学に在籍しています。戦後の私立大学の努力によって、多くの日本人が高等教育を受ける社会になりました。その私立大学の中でも、法政大学はトップクラスです。法政大学で学んだことは、必ず皆さんの人生にとって大きな力になります。自信をもって卒業していってください。

大学における学修についてお話ししてきましたが、科目履修とは異なることで、自分は成長した、と思えたかたもいるでしょう。クラブ・サークル活動、ピアネット活動、ボランティア、インターンシップ、そして留学経験です。法政大学では多くの学生が、海外や大学の外の社会とつながりながら、多様な活動を展開しています。これらもまた、感性や考えの異なる人々と交流し、多様な価値観を知り、チームワークで企画を実現する、外国語能力をつけるなど、大事な経験だったはずです。企業では、留学や長期のインターンシップ経験などを重視するようになっています。そこで、これらを「学修経験時間」とし、企業と大学はそれらで得た能力や成長のプロセスを確認する方法を、探っています。

今年、国公私立大学の連合体と、経済界との、就職をめぐる密接な対話が始まりました。大学も企業側も、まず学生たちの、今述べてきたような学修経験時間を大切にしようという考えで一致しています。その上で、学生たちの主体性と能力を、どのような指標ではかるか、それが目下の課題です。企業と大学とが密接な対話を始めた、そのきっかけになったのが、経団連会長の「就職・採用活動に関する時期のルールをなくす」という発言でした。つまり、企業説明会などの広報活動は3月以降に、面接をはじめとする選考活動は6月以降に、というルールを撤廃し、いつおこなっても良いことにする、というものでした。実際には突然ルールがなくなることはありません。しかしこの発言の背景に日本の就業形態の大きな変化が潜んでいるのを、私をはじめ多くの人が感じました。終身雇用、年功序列が消えてゆく。流動性が高まり、中途採用、通年採用がおこなわれ、仕事をする場を変えるのが当たり前になる。さらに、日本で働くとは限らず世界に働く場所が広がる。企業だけではなくNPO、NGO、各種研究組織、そして宇宙空間までもが働く場所になり得る。そして、新しい、思ってもいなかった仕事が生まれる。

このような社会で、皆さんはこれから生きていきます。「みんなと同じように普通に生きていこう」という考えたところで、もはや「普通」はどこにもありません。自分の特性と能力を生かし、学び続けられることは何か、これからも追求し続けて下さい。資格を得た方も、特別な専門の学位を取得された方もおられるでしょう。しかしその資格や専門性に加え、ぜひ日々の仕事の中で社会と世界の動きに注目し、学び続けて下さい。世界はどんどん変わっていきます。

「ダイバーシティ」つまり「多様性」を価値あるものとする考え方も、広がっています。単に「いろいろな人がいます」というだけではありません。「ダイバーシティ&インクルージョン」と呼ばれ、多様な人々が包摂され、共に暮らし共に創造していく社会がいま、求められているのです。世界には皆さんがまだ出会っていない、多様な人々がいます。「ニューロ・ダイバーシティ(neurodiversity 脳の多様性)」という言葉があります。特にシリコン・バレーなどIT産業が盛んな場所で、肯定的に使われている言葉です。「ニューロ・ダイバーシティ」を肯定する社会では、たとえば発達障がいや自閉症など、今まで障がいと捉えられていたことが、「個性」であり「能力」であると、みなされるようになっています。異なる人々の能力が集まり、発案し、議論し、実践してみることで、思わぬ発明がたいへんな速度でなされるのです。つまり多様性の尊重は福祉の視点からだけでなく、これからの産業や社会の発展に必要だからこそ、重要視されているのです。

一方日本は空気を読む社会とか、同調圧力が高い社会、と言われます。そのような社会では「普通」という言葉が幅をきかせ、その普通からはずれないように行動しがちになります。ほんの少しでも皆と違う言動をする人や、感じ方、価値観が異なる人は、日本ではとても生きにくい、と感じることが多いです。世界経済フォーラムによる男女格差の度合いを示す2018年の「グローバル・ジェンダー・ギャップ指数」において、調査対象となった149カ国のうち、日本は110位でした。日本では女性国会議員の数も、企業の女性役員の数も非常に少なく、男女間でさえ、日本のダイバーシティはまだまだ進んでいません。しかしそれでいいのでしょうか?

皆さんが体験することになる変化と多様化について、話してきました。
皆さんは、法政大学憲章「自由を生き抜く実践知」を、ご存知だと思います。「自由を生き抜く」とは、自由な環境のなかにいる、という意味ではありません。どのような状況で生きることになろうと、自らの価値観をもち、一度しかない、そしてあなたにしか実現できない生き方を選び取ることです。「実践知」とは、理想と目標をもちながらも現実を無視せず、現実を熟知しながら、その中で行動をもって社会を変え、自分自身を柔軟にしていくことです。皆さんはこれからまさに、それぞれにとっての自由を生き抜き、それぞれにとっての実践知が試されることになります。皆さんがまっすぐ前を向いて自分の生き方を貫いていくことで、多様性のある社会になります。異なる環境や境遇のなかで生きてきた人への想像力を働かせながら、個々の価値観を大切にし、それを伝えていってください。

ところで、皆さんは卒業していきますが、今日から、校友会の一員として、卒業生のネットワークにつながります。未来を切り開くために、ぜひ校友の絆も使って下さい。皆さんがその絆を断ち切らなければ、校友会も大学も、皆さんを応援することができます。これからも法政大学のコミュニティの一員として、一緒に、この変化の激しい厳しい社会を、希望をもって乗り越えていきましょう。あらためて、卒業、おめでとうございました。