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2018年度 学位授与式 総長告辞

2019年03月24日

2018年度学位授与式 告辞

皆様、卒業おめでとうございます。保護者の皆様にも、心よりお祝い申し上げます。

このなかには、これから就職をする人だけでなく、さらに研究や勉学を続けるかたもおられると思います。また、すでに社会で活躍していらっしゃるかたもおられるでしょう。これから皆さんはどのような社会の課題に直面するのでしょうか?

このところの日本社会と世界の変化はめまぐるしいものがあります。この4月には、出入国管理法改正が施行されます。この法改正には多くの議論があり、疑問も寄せられていますが、日本で多種多様な外国人の方々に働いてもらうための法律改正で、日本社会が変わる大きな転換点です。働く現場でも、暮らす地域でも、学ぶ学校においても、皆さんは日本人でない方や、日本語をあまり話せない方々と関わるようになるでしょう。この多様性は、外国人の方々の環境を政府や企業は整えられるのか、という心配はありますが、もう一方でたいへん楽しみです。明治維新の時のように、日本のありようが大きく変化するからです。私たちは日本を、多様な国から来る方々の人権を尊重する、良い社会にしていかねばなりません。

法政大学は、皆さんが在学中の2016年6月に「ダイバーシティ宣言」を出しました。ダイバーシティとは「多様性」という意味です。長期ビジョンの一環ですのでまだ達成途上ではありますが、冒頭では「ダイバーシティの実現とは、社会の価値観が多様であることを認識し、自由な市民が有するそれぞれの価値観を個性として尊重することです」と述べました。人がそれぞれの個性と価値観をもっていることは、考えてみると当たり前ですね。ではなぜ、わざわざ本学はそれを宣言として出したのでしょうか? 

宣言では、「性別、年齢、国籍、人種、民族、文化、宗教、障がい、性的少数者」であることを理由とする差別をしないこと、これらの相違を個性として尊重すること、これらの相違を多様性として受容すること、互いの立場や生き方、感じ方、考え方に耳を傾け、理解を深め合うことが大事なのだと、述べています。私たちの社会はともすると多様であることより、自分と異なる人を差別し排斥しがちなのです。特に経済的な発展や生産性ということを基準にすると、そこに貢献しないと思われる人を差別することで、自分は貢献しているような心持になり、それによって自らの存在理由を感じ取ろうとするのかも知れません。しかしその連鎖は、絶え間ない戦いを結果します。民族どうし国どうしであれば、戦争の日々になります。多様性の尊重は、地球上における大きな危機を回避するために、なくてはならない人類の行動なのです。

そこで宣言の二番目の段落は、「人権の尊重はその第一歩です」と始まります。つまりダイバーシティの実現とは、人類の人権尊重の努力によって、多様であることを維持することなのです。ダイバーシティという考え方は、人間とは何か、自分や人を大切にするとはどういうことかを、教えてくれます。ダイバーシティは、私たちの認識の幅をぐっと広げるのです。たとえば性的少数者は現在、LGBTなどの言葉で表現されています。私たち人間世界の性別は男と女という二つだと思っていましたが、それだけでなく、虹のように多様な性別認識があることを、私たちはいま学んでいます。

本学の卒業生であり、世田谷区議会議員の上川あやさんは性同一性障害です。その上川さんはこうおっしゃっています。

「私たちは皆「普通」という思い込みを抱えています。そのことに、私自身が、「困っている当事者」になった時に気づかされました。日本では、多数派から外れた時に「普通」ではなくなります。このような同調圧力の高い社会で、困っている人が困っていると表明できるでしょうか。こうしたことを常に問い続けていくことが、私の議員としてのテーマです」と。ダイバーシティの実現とはこのように、「普通」という思い込みから解放されることなのです。

法政大学には、2020年東京パラリンピックをめざしている在学生もいます。義足で陸上競技をおこなっている山下千絵さんです。おめにかかったとき山下さんは「私は欠けたものを補っているのではなく、もっているものを活かしているのです」とおっしゃったのです。人は往々にして、自分の生きている社会の価値観に合わせ、その評価を求め、それに合致する自己像を思い描き、現実の自分と比べて欠けているところに悩みます。しかしそれはかえって、自分の身体や能力がもっている特性に気づかず、活かし切る機会を逃す場合があるのです。山下さんの生き方には、「自分の特性を伸ばし、最大限活かそう」というメッセージがありました。この考え方は、変化の多いこれからの社会を生きるために、特に必要なことです。

昨年本学では、職員を対象にした研修でユニバーサルマナーという考え方を勉強しました。講演をなさった「株式会社ミライロ」の薄葉幸恵さんは聴覚障がい者ですが、とても明瞭で素晴らしい講演をしてくださいました。ユニバーサルマナーとは、障害をもつ人、高齢者、三歳未満の子供などとコミュニケーションをとる際に必要となる、意識や行動のことです。薄葉さんから、印象的な言葉をいくつも伺いました。そのひとつが、「障がいは人ではなく環境にある」という言葉でした。私たちは健常者を基準にした社会を作ることで、「障がい者」という概念を作ってしまっているのです。特に生産性向上を唯一の目標にしている社会では、その成果への貢献が基準になるので、評価される能力の範囲がごく狭くなり、障がい者とされる人が増えるのです。

あるとき「なぜ、社会は多様でなくてはならないのですか?」と聞かれたことがあります。同じ価値観をもった人々の集まる社会の方が安全で居心地がよく、あまり話さなくとも気持ちが通じるので楽だと感じる人もいます。同じ民族や同じ組織の人々が集まって団結すると、不安から解放されたかのように感じる人もいます。そういう状態への願望が、排斥につながりやすいようです。幕末に尊皇攘夷という考え方がありました。攘夷とは排外主義のことです。明治維新から150年たち、多くの人が海外を旅し、海外各地で仕事もおこなうようになった今日でも、同じ願望をもつ人々がいるのです。

なぜ多様であったほうがよいのか。たとえば生活や文化背景が異なる人たちとともに働き、同じ地域で生活することを想像してみてください。互いにルールを守り空間や価値観を共有するために、説明が必要です。合わせられない人がいれば、その人の困難さを知る必要もあります。他の人の話に耳を傾け理解するためには、まず相手を尊重しなければなりません。その上で、自らもまたこの社会について知識を深め、気持ちを表明することになります。異なる背景を持つ人たちが、コミュニケーションを通じて自分たちの社会を見つめ直し、交わりの中でこの社会が変わっていくとしたら、その過程で、誰もが能力を磨くことになります。多様性が大切な理由のひとつは、交わりのなかでそれぞれの個性と能力が引き出され、磨かれ、同時に社会の質も上がって行くことなのです。

実際にコンサルタント会社がおこなった調査では、人種の多様性や性別の多様性が高い上位25%の組織は、それ以外の組織より業績が高かったのです。多様性の高いチームには様々な視点が生まれ、議論が活発になるからかも知れません。

また、変化が激しく、今までの方法ではうまくいかない場合や、そもそも正解がない課題に直面したとき、異なる考えや感性をもつ人々が素早く他の提案を出せます。多様性が大切なもうひとつの理由は、このような「リスクの回避と、新たな局面への打開」です。IT企業の一大拠点であるシリコンバレーには、「ニューロダイバーシティ」という言葉があるそうです。直訳すると「神経構造の多様性」です。互いに異なる神経構造つまり見え方や感じ方をもっている人たちは、認識する範囲が異なるので、それが新しい発見や創造につながっていくのです。

しかし日本はまだまだ多様性という面で立ち遅れています。世界経済フォーラムが発表した2018年のジェンダー・ギャップ指数つまり男女格差指数で、日本は149ヵ国中110位、先進国では最下位でした。15歳から64歳の女性の約70%が働いていますが、男性の正規社員は約78%に対して、女性の正規社員はたった44%です。とりわけ順位が低いのが、管理職の割合と国会議員の女性比率です。つまり働く女性は多いのですが、責任をとる立場にある女性が、世界の中で極めて少ないのです。皆さんが出ていくのは、そのような社会であることを、覚えておいてください。そして女性の皆さんは能力を伸ばす機会を逸しないでください。多くの女性が組織の管理や政治に携わることで、確実に日本は変わります。

皆さんは今日卒業して行きますが、ご自身の特質を思い切り磨いてください。法政大学も、宣言の最後にあるように「多様な背景をもつ学生・教職員が、安心して創造的に、学び、働き、それぞれの個性を伸ばせる場である」ことをめざしていきます。大学が多様になる方向の中には、年齢を問わず誰もが学べる場になる、という目標もあります。皆さんも変化する社会の中で能力を発揮し続けられるよう、この、自由を大切にする法政大学で再び、みたび、学んでください。またおめにかかれることを、楽しみにしています。

本日は、まことに、ご卒業おめでとうございました。

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