10月

ロスキレ・モデルとは

2015年10月29日

10月

ロスキレ大学のマークは珊瑚です。デンマークの海に珊瑚はありません。しかしロスキレ大学の創立者たちは、珊瑚の特徴こそ、育てたい学生の姿であり、また大学のありようだと思ったのです。

珊瑚は浅瀬の風の当たらないところでは死んでしまいます。そして強い潮風が吹き付ける場所でこそ、大きく育ちます。珊瑚は動き続ける環境で生き、静止したときに死ぬのです。

そのような理想をもったロスキレ大学は、とても新しく、1972年に設立されました。そのきっかけは1968-9年に世界を駆け巡った学生運動です。運動はデンマークにも広がり、そのうねりを国が受けとめ、この国立大学の構想につながります。今では学生数約8000人、教職員数約1000名で、30余りの学科をもつ大学です。設立当初から、当時の学生たちの声に応えて教員たちはThe problem-oriented,interdisciplinary and participant-directed project workつまり、問題を発見して学際的に考え、議論に参加するプロジェクト学習を実施してきました。これをThe problem-oriented project learning (PPL)と言いならわしているようです。

この実施のために、卒業単位数の半分はプロジェクト学習で取得する体制をとっています。キャンパス内にはキッチンやフリースペースがある、「ハウス」と呼ばれるPPL学習の拠点が点在します。1ハウス約60人ずつの学生が、数名ずつ配置される教員(スーパーバイザー)とともに小グループをつくり、語らい、学び、議論しながら、1学期ごとのプロジェクト学習を行っているのです。いくつかのハウスを訪問しましたが、留学生のハウスもあれば、もののデザインと思考とを結びつけるためのハウスもあって、議論しながらものを作っていました。

このロスキレ大学の教育法は、ドイツのオスカー・ネグト(フランクフルト学派の哲学者・社会学者)の模範的学習モデルにも影響を受けているそうです。学習の課題は日常生活に根差した事柄です。それぞれの日常があり、それらを洞察ことで全体の文脈や社会全体が理解できる、という考え方です。理論から出発して現実に適用するのではなく、現実から出発して結論を導くという逆の発想こそ必要、という考え方です。したがって分野ごとに科目が分類されるのではなく、複数の領域にまたがっています。これを「次第に適切化していく科目(Gradually qualified subject)」と、呼んでいました。

全体のカリキュラムが学生運動から影響を受けていますので、権威からの統制を排除し、外部からの評価を拒否する、という姿勢をもっています。しかし1976年にはこうした大学の姿勢が政治的圧力に晒され、国会でロスキレ大学を閉鎖するか否かという投票が行われたそうです。一票の差で何とか存続に至ったとか。

しかし当初の状況はしだいに変わっているようで、ST比率も増え、25%の票を学生が持っていたという学長選挙も、新しい大学法によって、外部の理事会が任命する方式に変わったそうです。

変化したとは言え、大学教育のひとつのモデルを作ったのです。法政大学は今後、どのような独自性を作っていくのか。それを考える上で、たいへん大きな示唆を得ました。