2013年度 法政大学東日本大震災復興支援研究助成金採択研究課題実績報告

研究課題:エネルギ-戦略シフトによる地域再生 -脱原発ソフトランディングと地域自然エネルギ-

研究代表者:舩橋 晴俊 教授(社会学部)
 研究実績の概要
 2013年度は、前年度に引き続き、繰り返し、福島原発被災地を訪れ、さまざまな立場の住民と福島県庁、南相馬市、富岡町、浪江町の行政各部局からの聞き取りを行うとともに、資料収集を行なった。それらの知見は、本研究プロジェクトの課題を次の三つに分節することによって、論文等にまとめ、さまざまな回路で成果を社会的に発信した。研究成果をとりまとめた論文を各テーマごとに[ ]内に記載する。
(1)エネルギー戦略シフトと震災復興にかかわる政策の問題点の分析
東日本大震災以後、政策的対応が要請されている二つの大きな課題は、第一に、震災被災地の地域再生と被災者の生活再生、第二に、エネルギー戦略シフトである。しかし、震災後三年を経過したにもかかわらず、この二つの課題に対して、整合的で効果的な政策が樹立され、実行されているとは言えない。そのような有効な政策の不在が、どのような意味で、取り組み体制と社会制御過程の欠陥に由来するものであるのかを分析した。
[舩橋晴俊(2013d)「震災問題対処のために必要な政策議題設定と日本社会における制御能力の欠陥」『社会学評論』64(3):1-23]

(2)被災地の地域再生としての「長期待避・将来帰還」という第三の道
福島県における地域再生の状況をみると、富岡町、浪江町、大熊町、双葉町などの長期避難を強いられた自治体とその住民にとっては、政府の提唱する早期帰還政策は、まったく不適合なものとなっており、自治体単位の地域再生も、個人単位の生活再建も、はっきりした将来展望を見出せない状況となっている。この状況を打開するためには、「長期待避・将来帰還」という「早期帰還」「移住」という二つの道のいずれとも異なる「第三の道」を提供することが不可欠である。そして、この「長期待避・将来帰還」の大局的方針を実現するためには、「地域再生基金」、「被災者手帳」、「地域再建の課題別協議会と専門支援員」、「適正な科学的研究」、「二重の住民登録」、「セカンドタウン」、「土地の長期的保全と利用」、「復興まちづくり公社」「小中学校における新入生の継続的受け入れ」などの政策を「政策パッケージ」として実施する必要がある。
[舩橋晴俊(2014a)「「生活環境の破壊」としての原発震災と地域再生のための「第三の道」」 環境と公害』43(3)62-67 /舩橋晴俊(2014b)「原発震災の被害構造と生活再建・地域再生のための「第三の道」」『東日本大震災の被災地再生をめぐる諸問題』法政大学サステイナビリティ研究所:1-19.]

(3)エネルギー戦略シフトの鍵としての再生可能エネルギーの普及と脱原発
本プロジェクト参加者は、法政大学サステイナビリティ研究所において組織化された「再生可能エネルギー事業化支援研究会」に参加し、震災後の各地における再生可能エネルギーの導入の実態を調査するとともに、それに取り組む住民団体と意見交換を行い、さらに複数の自治体において、その導入過程の支援を行なった。 交流した住民グループは、東京都八王子市、同杉並区、福島県南相馬市、兵庫県宝塚市、神奈川県大磯町などに及ぶ。とくに、南相馬市の「南相馬農地再生協議会」に対しては継続的に情報収集支援と活動支援を行なった。また、神奈川県大磯町では、「一般社団法人大磯エネシフト」による市民共同ソーラー発電所の設置を支援するとともに、大磯町における「地域自然エネルギー振興基本条例」の作成準備を支援している。
[舩橋晴俊・湯浅陽一編(2013)]『地域に根ざした再生可能エネルギー普及の諸問題-金融と主体の統合を求めて-』(非売品)]
以上の研究成果は、今後さらに、研究代表者(舩橋)が委員長を担当する日本学術会議「東日本大震災の被害構造と日本社会の再建の道を探る分科会」の提言作成を通して、社会的に発信していきたい。

page top

研究課題:「復興と生活再建に向けた協働フォーラム創造による震災被災者支援に関する実証

 研究代表者:西城戸 誠 教授(人間環境学部)
 研究実績の概要

  本研究プロジェクトの目的は、関連自治体や住民組織・NPOと協働し、集められた情報の活用、ニーズへの対応を柔軟に行う仕組みである「協働フォーラム」の構築をより推進するために、さまざまなタイプの被災者・支援者への調査研究を行うことである。また、情報提供を媒介として、被災者、支援者、関連自治体のネットワーキングの形成を行うともに、国際的・学際的な情報発信と理論構築と本学の教育活動とのリンクも図ることを企図している。具体的な成果は、以下の通りである。

第一に、福島第一原発事故による避難者のさまざまな「声」をくみ上げることによって、多様な避難者の存在とその「声」に関する情報提供を行った。それは支援者への情報提供だけではなく、避難者同士のネットワーク化にも寄与する。また、避難者自身が、他の地域の避難者と交流し、支援者も他の地域の支援状況を知ることによって、避難者同士、支援者同士のネットワークも構築できた。従来の研究、社会調査は、専門家たる研究者が、現地に赴き、情報を収集し、それを学術誌に公表するという形で完結していたが、本研究プロジェクトでは、被災者、避難者と研究者が共にフィールドに赴き、情報収集をしながら、人的な交流、ネットワーク形成を行い、それ自体が、被災者、避難者の支援につながるという、参加交流型の調査を行った。つまり、原発避難者の必要なニーズや支援についての把握と、被災者やその自助団体、支援者や支援団体・NPO同士のネットワーク化と、被災者・支援者・当該自治体間の協働フォーラムのための仕組みの構築に向けた活動を実施し、震災から3年経った現状についての知見を『福玉便り2014春の号外』にまとめた。この号外は、マスコミにも大きく伝えられている
(http://www.nhk.or.jp/saitama/wagamachi/popup/140307_shuto_fukutama.html)。さらに、この調査研究の知見は、NHK特報首都圏(2013/11/22放送・http://www.nhk.or.jp/tokuho/program/131122.html)、NHK首都圏スペシャル(2014/2/28放送・http://www.nhk.or.jp/shutoken/special/20140228.html)の取材協力にもつながった。なお、埼玉県における原発避難者の実態と支援についての学術的な研究成果は、2014年度上半期に上梓する予定である。

第二に、人間環境学部で実施しているフィールドスタディと本研究プロジェクトを接続させ、調査研究と教育実践の融合による被災地支援を行った。人間環境学部では3年前から宮城県石巻市北上町における支援(ボランティア)活動を継続しているが、2014年度は新たに、石巻市北上町での被災地でのフィールドスタディを開催した。その実践は、津波被災地において、ツアーの受け入れによる地域活性化の効果や、避難者支援における自立支援の一形態の可能性についての考察につながった。さらに、津波被災者やその支援者とともに、中越地震の経験を学びながら、震災支援の制度についても研究を行った。これらの調査、実践は、津波被災地においても、被災者やその自助団体、支援者や支援団体・NPO同士のネットワーク化と、被災者・支援者・当該自治体間の協働フォーラムのための仕組みの構築のためのものであり、現状における課題を析出することになった。
なお、石巻市北上町に関する実践的な調査研究の知見は、公募で応募した科研費報告書に掲載される予定である("Reconstruction of Residences and Livelihoods and Reorganization of Regional Communities in Kitakami-cho, Ishinomaki City,Miyagi Prefecture”, Makoto NISHIKIDO (Hosei University), Satoru KURODA (Nagasaki University), Zenki HIRAKAWA(Hokkaido University)。さらに、2014年11月に法政大学市ヶ谷キャンパスでシンポジウムを開催予定となっている。

第三に、「東日本大震災わたしたちの声」(http://voice-tohoku.jp/)というwebサイトの運営を継続的に実施し、被災地の声を集め、誰もが利用できるデータベースを作り、災害研究のパブリックな知的財産を作り上げる努力を継続した。今後、データベースの内容を英語にし、他国への知的資産の公開を通じて、海外での災害復興や生活再建の局面に資するようにしたいと考えている。

page top

研究課題:震災3年目を迎えた陸前高田市被災住民の暮らしの課題と包括的まちづくりについて

 研究代表者:宮城 孝 教授(現代福祉学部)
 研究実績の概要

 本研究プロジェクトは、東日本大震災において岩手県で最も甚大な被害にあった陸前高田市において、被災住民自身が地域の再生、生活再建に向けてその課題を話し合い、主体的な取り組みを行うことを支援しつつ、仮設住宅および被災地域におけるコミュニティの形成のあり方を共に模索しながら、今後の復興における地域再生のモデルづくりに寄与することを目的として、今日まで活動を続けている。

本プロジェクトは、一昨年、昨年に引き続き3回目となる市内・外合わせて52の仮設住宅団地の自治会長等へのインタビュー調査と、初めて仮設住宅居住者へ今後の暮らしの意向に関するアンケート調査を、2013年8月に実施している。自治会長へのインタビュー調査の内容としては、入居3年目を迎えた仮設住宅団地における①転出・転入等の居住状況、②高齢者や子どもなど配慮が必要な人の状況、③住環境、生活環境の問題と対応、④自治会活動とコミュニティ形成の状況、⑤外部支援団体の関与の状況、⑥住宅再建・復興まちづくりに関する情報や意見等についてである。また、仮設住宅居住者へのアンケー調査は、①世帯の属性、②仮設住宅での暮らしの評価、③仮設住宅での暮らしで特に困っていること、④自動車の保有状況、⑤外出時の交通手段と頻度、⑥仮設住宅のご近所づきあいについて、⑦仮設住宅団地の子どもの遊び(場)、⑧現在特に心配なこと、⑨回答者ご本人と家族の心身の健康状態について、⑩被災前と比べた世帯収入の増減、⑪今後の住まいの予定、⑫生活再建に対する要望、⑬地域の復興まちづくりを進めるために重要なこと、⑭住民参加や情報提供についてなどである。

アンケート調査は、2020世帯に配布し、899世帯(回収率45%)から回答があった。インタビュー調査とアンケート調査の結果からは、調査時点において震災発生から約2年半が経とうとしており、仮設住宅での暮らしが長期化する中、高台移転などが目に見えてきた地域と、なかなか将来の展望が目に見えない等多くの不安の声も寄せられ、また1年前と比較して心身の健康状態が悪化している人が、約3割となっており、深刻な状況がうかがえた。 これらの調査結果を分析し、復興まちづくりに向けた今後のあり方と課題を提言としてまとめ、各仮設住宅団地のデータの詳細、居住者の今後の暮らしの意向に関するアンケート調査結果を報告書としてまとめ、仮設住宅団地自治会長、行政、市議会等広く関係者に送付し、今後の復興施策へのフィードバックを図っている。 また、別添のとおり、これらの調査結果について、地元紙でも大きく取り上げられ、被災地における世論形成に一定の成果をあげることができたと言える。

page top

研究課題:放射能汚染地域における農産物への放射性物質移行とその安全性検証に関する研究

 研究代表者:佐野俊夫 准教授(生命科学部)
 研究実績の概要

本研究グループはこの3年間、東日本大震災復興支援研究助成金をいただき、福島県農地で栽培した野菜と農地土壌中の放射性物質濃度を測定し、土壌除染方法の検討と野菜の安全性の検証を行ってきた。とりわけ今年度は土壌除染に利用可能な植物(カバープランツ)の探索と、吸収した放射性セシウムの植物体内移行にかかわる調査を行った。土壌除染には表層土壌の剥離が有効であるが、本研究では農地土壌をそのまま活かして除染するために、まず非食用であるカバープランツを栽培し、その後に野菜栽培を行い、カバープランツの土壌除染に対する効果、および野菜への放射性物質吸収抑制に対する効果を検討した。

1、実験方法
植物栽培実験は昨年度に引き続き、福島県福島市にある福島大学に隣接した圃場を借用して行った。カバープランツには牧草であるイタリアンライグラス、塩類吸収能力の高いアイスプラント、そしてセシウム吸収能が高いとされるイヌビユを用いた。栽培する野菜はその可食部位の違いによる放射性物質吸収量の違いを検討するために、キュウリ(果実)、コマツナ(葉)、カブ(根)を選択した。圃場土壌は地表から深さ15 cmまでの間で採取し、2 mmのふるいでふるいがけし、絶乾後、重量を測定した。植物体と土壌中に含まれる放射性核種量はEMF211型ガンマ線スペクトロメータ(2011年度の助成金にて購入)を用いて測定し、植物は生重量当たりの、土壌は乾重量当たりの放射性核種濃度を示した。

2、実験結果
1)福島大学実験圃場の土壌残存Cs濃度の変化
昨年度(2012年度)の調査では、福島大学実験圃場の土壌には2500~3500Bq/kgの放射性セシウムが残存していた。今年度も継続して土壌放射性セシウム濃を測定したところ、2012年度と比べてその濃度が2~3割低下していた。うち、Cs137濃度は1~2割、Cs134は約3割の低下であった。また、カバープランツを栽培しない区(対照区)と栽培した区(実験区)とを比較すると実験区の値が2割程度低かった。
2)カバープランツが吸収したCs濃度の測定
カバープランツとしてイタリアンライグラス、アイスプラント、イヌビユ種子を播種し、約3か月間栽培したのち、それぞれの吸収した放射性Cs濃度を測定した。その結果、いずれの植物でもその値は数十Bq/kg程度であった。
3)栽培した野菜が吸収したCs濃度の測定
カバープランツ栽培後の圃場でキュウリ、コマツナ、カブを栽培した。生育後、その可食部Cs濃度を測定した。その結果、キュウリ(果実)、コマツナ(葉)、カブ(根)の可食部Cs濃度は20~40 Bq/kg程度あった。また、カバープランツの有無による吸収Cs濃度の違いは見られなかった。

3、実験考察
1)2013年調査では2011年、2012年調査に比べて土壌中セシウム濃度はさらに減少した。その理由としては半減期が約2年のセシウム134からの放射線量がこの2年間で約半分に減ったこと、および、水溶性の放射性セシウムが降雨により畑地から流亡したことが考えられる。しかし、依然2000~2500 Bq/kg程度の放射性セシウムが土壌中に残存していた。今後もCs134の崩壊と降雨による流亡により土壌放射性セシウム量は減少すると考えられるが、半減期が約30年度崩壊の少ないCs137および、土壌粒子に固着した放射性セシウムが残存し、来年度でも1500~2000 Bq/kgが残存すると予測される。
2)カバープランツ(イタリアンライグラス、アイスプラント、イヌビユ)は栽培した野菜よりは放射性セシウムを吸収していたが、その値は食品の安全基準値である100 Bq/kg以下であった。これらの植物は作物として栽培される植物よりも放射性セシウムの吸収量が多いと考えられるが、土壌中放射性セシウム濃度よりは1ケタ以上低い値であり、昨年の調査結果と同様に植物体を用いた土壌除染には相当な労力および時間が必要と計算された。また、カバープランツを栽培した土壌では栽培しない土壌と比べて放射性セシウム濃度が2割程度低かった。カバープランツが吸収した放射性セシウム量は少ないことから、その効果により土壌放射性セシウム濃度が減少したとは直接には考えにくい。しかし、植物を栽培することで何らかの土壌セシウム濃度低減の効果があるのかもしれず、それは今後も検討する予定である。
3)その後に栽培した野菜可食部の値は20~40 Bq/kg程度であり、食品としての安全性(基準値100 Bq/kg)は保たれていると考える。また、キュウリ(果実)、コマツナ(葉)、カブ(根)ではキュウリの値が最も低く、反対にカブの値は高かったことから、根で吸収した放射性セシウムは一様に植物体内に分配されるのではなく、地下部から地上部に向かうにつれてその移行量が減少する様子が伺えた。カバープランツ栽培の有無による野菜放射性物質濃度には違いがみられなかったが、それは吸収した放射性セシウム濃度が低濃度であり、その効果が十分に表れる濃度よりも低かったためと考えられる。

本研究では今年度も放射性セシウム吸収能の高い植物を探索した。しかし、昨年度調査した福島大学圃場に自生していたキク科雑草(ヒメムカシヨモギ)、イネ科雑草(メヒシバ)の吸収能力を下回った。いっぽう、栽培した野菜可食部の放射性セシウム濃度は食品の安全基準値100 Bq/kgを下回り、食品としての危険性は少ない。しかし、一般市民の求める「放射性物質フリー」とは言えず、また土壌放射性物質濃度も減少傾向ではあるが、完全除去は難しい。
東日本大震災復興支援研究助成金は今年度で終了するが、まだ福島県の放射性物質汚染問題が解決したわけではない。今後は別の資金獲得を画策し、引き続き、土壌中放射性セシウム濃度の測定、土壌除染、作物の安全性の検証を続けたい。
なお、本研究成果を日本雑草学会第53回大会(2014年3月29,30、法政大学小金井キャンパス)において発表した。