2012年度

Vol.53 時代を彩る能・狂言の絵画資料

2012年09月06日

2012年度

1946(昭和21)~1950(昭和25)年に学長・総長を務めた野上豊一郎の能楽研究の功績を記念して1952(昭和27)年に創設された野上記念法政大学能楽研究所。室町時代から現代におよぶ能楽に関する多彩な資料を収集しており、質・量ともに日本最大規模を誇ります。創立60周年を迎えた今年、『能・狂言を描く』と題した記念展示を開催し、特に稀少価値の高い絵画資料を展示しました(現在は終了)。今回はこの特別展でも公開された、所蔵資料の一部を紹介します。

父の観阿弥とともに能を大成させた世阿弥の資料「二曲三体人形図」は能を描いた最古の伝本であり、転写本でありながら世阿弥の絵の雰囲気を忠実に再現しているとされています。室町時代の能役者の肖像画として有名な「宮増弥左衛門画像」は、能楽研究所観世新九郎家文庫に所蔵されています。役者の姿絵は室町前期から存在していたようですが、その多くが失われ、この作品が現存する最古の肖像画です(※)。

能「摂待(せったい)」を絵画化した紙芝居「接待」。裏面には各場面の説明やセリフ、謡曲の一節などが記される。1942(昭和17)年作

能「摂待(せったい)」を絵画化した紙芝居「接待」。裏面には各場面の説明やセリフ、謡曲の一節などが記される。1942(昭和17)年作

能の舞台を描いた絵画の中で特に貴重なものは2011(平成23)年に購入したばかりの「能絵鑑」。喜多流の能を学んだ徳川家宣の周辺で制作され、妻の実家である近衛家に贈られたと推察されています。幕府御用絵師の狩野春湖の筆により面や装束が精緻に描かれ、美術品としても見応えのあるもの。また、「青山仮皇居御能図」では明治天皇の天覧の様子が、美人画を得意とした浮世絵師・周延により色鮮やかに描かれています。

昭和期に紙芝居が誕生すると能の物語を絵画化した作品も制作されました。紙芝居「接待」では場面説明やセリフに加えて、謡曲も披露されていたようです。

同研究所では室町、江戸、明治から現代まで各時代の幅広い資料を揃え、調査・研究に活用しています。創立60周年の今年は普段は展示されない貴重な資料を一般に公開する機会も計画中です。また、同研究所のウェブサイトにはデジタルアーカイブが設けられ、「能絵鑑」の全150図をはじめとした膨大な資料の数々を鮮明な画像で公開していますので、ぜひご覧ください。

戦国期に描かれたと推察される「宮増弥左衛門画像」は、現存する能役者の肖像画としては最古の作品

戦国期に描かれたと推察される「宮増弥左衛門画像」は、現存する能役者の肖像画としては最古の作品

(左)1878(明治11)年、青山大宮御所で行われた能舞台の様子を描いた「青山仮皇居御能図」。明治天皇、英照皇太后、伏見宮、有栖川宮のほか、多くの女官も描かれており、華やかな色彩が目を引く(右)六代将軍、徳川家宣の妻の実家・近衛家伝来の能画帖「能絵鑑」。研究所のウェブサイトでは全二帖、150図を公開している

(左)1878(明治11)年、青山大宮御所で行われた能舞台の様子を描いた「青山仮皇居御能図」。明治天皇、英照皇太后、伏見宮、有栖川宮のほか、多くの女官も描かれており、華やかな色彩が目を引く(右)六代将軍、徳川家宣の妻の実家・近衛家伝来の能画帖「能絵鑑」。研究所のウェブサイトでは全二帖、150図を公開している

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