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Vol.45 法政大学 大原社会問題研究所 所蔵 カール・マルクス著『資本論』署名入り初版本

2012年04月12日

カール・マルクス著『資本論』署名入り初版本

3冊の『資本論』初版本。一番右がマルクスの署名入り。当時は購入者が製本を仕上げるため表紙が異なっている

3冊の『資本論』初版本。一番右がマルクスの署名入り。当時は購入者が製本を仕上げるため表紙が異なっている

20世紀の政治と経済に大きな影響を与えた思想家のカール・マルクス(1818~1883)。その主著として知られる『資本論』初版は1867年、ドイツ・ハンブルクのマイスナー書店から刊行されました。
一説によると世界中で約100冊の初版本が現存すると言われており、大原社会問題研究所では3冊を所蔵しています。なかでも稀少なのがマルクス自筆の署名が入った1冊です。
1917(大正6)年のロシア革命を受け、日本でもマルクス研究への関心が高まっていた1920年代、大原社会問題研究所は研究員であった経済学者の櫛田民蔵をドイツに留学させ、マルクス関連の著作をはじめとする大量の文献史料を買い集めていました。ベルリンの古書店に通い詰めていた櫛田は、レーニンの指示によりソビエト連邦から史料収集に訪れていたマルクス・エンゲルス研究所長のリヤザノフらと競い合うように史料を購入し、現地の古書価格をつり上げていたと言われます。この時入手したのが、マルクスが友人のクーゲルマンに献呈した署名入りの初版本です。

クーゲルマンは、ドイツ・ハノーファー在住の産婦人科医でマルクスの熱心な信奉者でした。マルクスの次の著作を待望し、共通の友人であるドイツの詩人フライリヒラートを介して執筆状況を問い合わせるうちにマルクスと直接連絡を取るようになりました。
労働運動に傾倒し、国際労働者協会の一員だったクーゲルマンはマルクスにとって親友であり同志とも言える存在だったようです。『資本論』初版の校正はクーゲルマンの自宅に1カ月ほど滞在して行われたと言われています。また、第二版の刊行にあたってマルクスは労働者にも理解しやすいよう第一章を大幅に改訂しましたが、これはクーゲルマンの提案によるものでした。
こうした『資本論』の内容そのものに関わる人物への献呈本であったことに加え、さらに重要な史料的特徴があります。それは刊行当時の紙表紙がそのまま残されている点です。当時の本は仮とじ本の状態で販売され、購入者が個別に製本業者に依頼し、ハードカバーの表紙を付けていました。その際、当初付いていた簡易的な紙表紙は取るのが一般的でしたが、クーゲルマンは、理由は不明ですがそれを残した状態で製本を仕上げています。
マルクスの署名入り、しかも刊行当時の完全な姿を確認できるこの1冊は、まさに稀覯本中の稀覯本と言えるでしょう。

ハードカバーの表紙をめくると左側にマルクスの献辞と署名がある。右側の扉ページは刊行当時の紙表紙。これをめくると、同じようにタイトルと著者名の入った本来の扉ページとなる

ハードカバーの表紙をめくると左側にマルクスの献辞と署名がある。右側の扉ページは刊行当時の紙表紙。これをめくると、同じようにタイトルと著者名の入った本来の扉ページとなる

「わが友ドクター・クーゲルマンへ、ハノーファー1869年9月17日、カール・マルクス」と書かれている。自分で書いたメモが読めなかったと言われるほど悪筆で知られるマルクスだがこれは読みやすく、よほどていねいに書いたものと見られる

「わが友ドクター・クーゲルマンへ、ハノーファー1869年9月17日、カール・マルクス」と書かれている。自分で書いたメモが読めなかったと言われるほど悪筆で知られるマルクスだがこれは読みやすく、よほどていねいに書いたものと見られる