2011年度

Vol.9 「スペイン内戦文庫」

2011年06月22日

2011年度

法政大学多摩図書館 所蔵資料

スペイン内戦(1936~1939)は、1931年の統一地方選挙で王制から共和制へ移行したスペイン国内の社会的・政治的混乱から勃発した内戦です。左派の共和国政府とフランコ将軍の右派反乱軍による戦争は、ピカソの『ゲルニカ』に描かれたような無防備都市への無差別爆撃などから「現代殺戮兵器の実験場」といわれ、ドイツ、イタリアの反乱軍支援、ソ連(当時)の共和国支援、欧州列強と南北アメリカの不干渉という名の干渉、日本人を含め世界55カ国からの義勇兵の参戦などから「第二次世界大戦の前哨戦」ともいわれる戦争でした。

スペイン内戦はまた、「イデオロギー戦争」、報復と粛清が繰り返された「20世紀最大の宗教戦争」、戦争を正当化するためジャーナリストや文学者などを大量動員した「インクの戦争」など、さまざまに呼称されるほど重大な事件だったにもかかわらず、その歴史学的研究はいまだ十分ではないといわれています。

文庫には内戦に介入した諸外国の文献なども蒐集されている。

文庫には内戦に介入した諸外国の文献なども蒐集されている。

こうしたスペイン内戦に関係する2千点を超える文献と原資料からなるコレクションが、本学多摩図書館所蔵の「スペイン内戦文庫」です。オランダ社会科学研究所から本学が入手し、1982(昭和57)年に図書館に収蔵されました。内容は、(1)内戦期の両陣営、とりわけ共和国陣営の文献と資料(2)内戦後に出版された回想録などの文献と資料(3)1960年代以降、スペイン内外で出版された研究書(4)19世紀末から第二共和制誕生、内戦前史の研究書、の4系統に大別されます。

文庫の最大の特徴は、資料の過半数が内戦期に刊行された「第一次史料」であり、しかも欧州諸国に散逸して収集不可能と思われていた共和国陣営の文献や資料を発掘していること。従来の共和国陣営資料の不備を補完するに十分な内容を持ちます。また、内戦に介入した諸外国の8カ国語におよぶ文献なども収集されています。これらの中には、ナンバー付きの限定出版、私家版、原著者サイン入り文献などが多数含まれていますが、とくに共和国陣営のチラシやパンフレット、雑誌、新聞、ビラなどは注目に値します。

本文庫は質・量ともに世界的にもきわめて珍しいコレクションということができ、今後、本コレクションに近・現代スペインの社会、文化、思想に関する文献などを加えることによって、本学が、わが国のスペイン内戦史研究におけるナショナル・センター的な役割を果たすことになるでしょう。

  • 共和派のビラの一部。敗北した共和派の資料は、焚書されたか再生紙となって、ほとんど残されていない。

  • 共和国のネグリン政府の公式スポークスマンだった『前衛』紙の完全版。完全な収集は現スペインのどの図書館にも収蔵されていない。

  • 内戦に先立つ1934年、アストゥリアスの「十月革命」を扱った、ヘリオス・ゴメスの『十月、万歳!』の表紙と本文。現在では全く入手不可能な貴重資料だ。

参考資料:川成洋「『スペイン内戦』コレクション」(雑誌「法政」82年4月号)、同「スペイン内戦『国際旅団』結成50周年記念大会に出席して」(同87年5月号)、同「『スペイン内戦文庫』について」(同89年7・8月号)

  • スペイン内戦の様子を美しい色彩で描いたアナキスト側の画集。

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