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細胞の中心―中心子―の形を決める原理を解明
~太古から受け継ぐマジックナンバー「9」の決定機構~

2016年03月22日

法政大学生命科学部の廣野雅文教授、東京大学大学院理学系研究科の苗加彰大学院生らは、スイスPaul Scherrer研究所のMichel O. Steinmetz博士らとの共同研究により、細胞内小器官の中心子の構造が決定されるしくみを明らかにしました。

中心子は細胞の形作りや細胞の分裂のしくみのなかで中心的な役割を果たしています。また多くの細胞では、中心子が形成基部となって、運動と感覚機能を担う繊毛という小器官が成長します。中心子は生物が太古から受け継いできたもので、原生動物からヒトまで共通して9本のタンパク質繊維を基本骨格としています。しかし、そのような不思議な構造がどのように形成されるのかはよく分かっていませんでした。中心子の形成に異常があると、細胞のがん化や、繊毛の異常による病気(水頭症、嚢胞腎、内臓逆位など)が起こることが知られています。今回の発見はそれらの疾患の理解や治療に役立つと期待されます。

この研究成果は英国科学誌Nature Cell Biologyのオンライン版に2016年3月22日に掲載されます。

【研究成果のポイント】

  • 中心子の形は「カートホイールと微小管の相互作用」で決まることを明らかにした。
  • 細胞のがん化や、繊毛の異常による病気(水頭症、嚢胞腎、内臓逆位など)の理解や治療に役立つと期待される

背景

ヒトを含むすべての動物の細胞には中心子が存在して、細胞の骨格として働くタンパク質繊維(微小管)の形成中心として働いています。細胞分裂の際には、染色体を二つの娘細胞に分配するための司令塔のような役割をはたします。また、中心子の異常はがんや小脳症などを引き起こすことがわかっています。

中心子からは繊毛と呼ばれる突起が生じます。体の中のほとんどすべての細胞に見られますが、特に重要なのは、気管、脳室、腎臓、受精卵から発生して間もない胚の繊毛です。それらの形成や運動の異常は気管支拡張、脳室拡大、嚢胞腎、内臓逆位などといった、繊毛病と総称される疾患の原因になることが知られています。

中心子は9本の短い特殊なタンパク質繊維(3連微小管)からできています(図1)。繊毛はその中心子を基部(基底小体)として伸長し、内部に9本の2連微小管が2本の微小管を取り囲んだ「9+2構造」と呼ばれる骨格構造が形成されます(図1)。中心子と繊毛がもつ9本の微小管構造は、10億年以上前の祖先細胞が獲得したもので、それが現在の生物まで受け継がれていると考えられます。これほど厳密に保存されているのは、その構造が極めて重要だからなのでしょう。しかし、「なぜ9なのか」「どのようにして厳密に9に決まるのか」という「マジックナンバー9の謎」は、多くの研究者の挑戦にもかかわらず、長く未解明のままでした。

廣野教授のグループは、10年ほど前から、単細胞緑藻のクラミドモナスの突然変異体を用いた研究により、中心子の形を決める機構の一端を明らかにしてきました。微小管が8本や10本になった中心子を形成する変異株などを解析した結果、a) 「9」を基本とする中心子の形は、カートホイールという、スポークが9本の車輪のような構造が重要であること(図2)、b) カートホイールは18個のSAS-6というタンパク質が会合して形成されること(図2)、およびc) 中心子の形の決定には、カートホイール以外の要因も働くこと、を明らかにしてきました。 カートホイールの重要性は海外の研究者も注目していましたが、カートホイール以外の要素が同様に重要であることは、注意が払われていませんでした。

図1.繊毛と中心子

中心子は繊毛の根元にあって、形成基部として機能する。繊毛の横断面(上)は9+2と呼ばれる構造パターン。中心子の横断面(下)は9本の短い3連微小管が9回対称に配置した構造をもつ。

図2.カートホイールとSAS-6

カートホイール(左下)は中心子内腔の底部にある車輪状構造。SAS-6の2量体は2つの頭部と棒状の尾部をもつ。これが頭部を介して9回対称に会合してカートホイールが形成される。

研究成果

今回の共同研究では、そのカートホイール以外のしくみについて手がかりを得るため、遺伝子改変によってカートホイールのスポーク数を変える実験 を行いました。SAS-6は棒状の部分と2つの球状の部分からなる2量体を形成します。試験管の中におくと、それらは自動的に球状部分を介してリング状に会合して、カートホイールを生じます(図2)。そこで、分子の立体構造の情報をもとにSAS-6に変異を加え、6つの2量体がリングを作るようになったもの(6回対称、といいます)を作り、それをクラミドモナスに発現させた時にどのような中心子ができるのか、調べました。

その結果、a) SAS-6の会合性を6回対称に変えると、微小管8本の中心子(8回対称)が形成されるようになるが、多くは9本微小管のまま変わらない、b) 意外なことに、生体内ではそのようなSAS-6もスポークが9本のカートホイールを形成する場合が多い、c) しかし、SAS-6に加えて、それとは別種のカートホイールタンパク質を改変し、カートホイールと中心子微小管の結合を弱めると、6本スポークのカートホイールが形成されるようになる、ことが明らかになりました。

これらの結果は、中心子の9回対称性の決定にはカートホイール以外の要因も寄与するという以前の結果を裏付ける ものです。それに加えて、その要因はカートホイールの周囲に配置した微小管に由来 していて、周囲の微小管が中心子の形だけでなくカートホイールの形にも影響する ことを示しています。本研究では、これらの知見をもとに、新しいモデルを提唱しています(図3)。基本的な考えは、カートホイールと中心子の微小管は独立に形成され、それらの間のダイナミックな相互作用の結果、9回対称性の中心子が安定化されて残る、というものです。

カートホイールの重要性が発見されて以降、中心子の形は18個(2量体×9)のSAS-6分子が集合して形成されるカートホイールが鋳型になって決まる、と考えが広まりました。しかし、今回の結果は、中心子の構造は独立したタンパク質集合過程が連続した結果決まるのではなく、「カートホイールと微小管の相互作用」という、ダイナミックな過程を含む ことを示しています。中心子構築のしくみに関する、まったく新しい機構の提唱 です。

図3.新しい中心子構築モデル

(A)カートホイールが先に形成されて、それが鋳型として中心子構造を規定するという考え。(B)カートホイールと微小管は独立に形成され、それらが相互作用することで、9回対称性の中心子のみが安定化されるという新しいモデル。赤数字はカートホイールのスポーク数、青数字は微小管数。

掲載誌情報

掲載誌:Nature Cell Biology
論文タイトル:SAS-6 engineering reveals interdependence between cartwheel and microtubules in determining centriole architecture
著者:Manuel Hilbert¶, Akira Noga¶, Daniel Frey¶, Virginie Hamel¶, Paul Guichard¶, Sebastian H.W. Kraatz, Moritz Pfreundschuh, Sarah Hosner, Isabelle Flückiger, Rolf Jaussi, Mara M.Wieser, Katherine M.Thieltges, Xavier Deupi, Daniel J.Müller, Richard A. Kammerer, Pierre Gönczy*, Masafumi Hirono* and Michel O. Steinmetz*
¶第1著者(同等の貢献度、5名)、*責任著者(3名)

本件に関するお問合せ先

法政大学 生命科学部
教授 廣野 雅文 (ヒロノ マサフミ)
TEL: 042-387-6132
E-mail: hirono@hosei.ac.jp

報道担当
法政大学 総長室広報課
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