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大腸菌内で機能するナノスケールのハイブリッドエネルギー型回転モーター

2014年02月18日

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学校法人法政大学
国立大学法人名古屋大学
国立大学法人東北大学

図1.べん毛モーターの模式図
多くのバクテリアは、細胞表層から突き出る細長いべん毛繊維を回転させて遊泳のための推進力を生み出します。べん毛繊維の根元には、膜構造を貫くように直径約50 nmのべん毛モーターが埋まっています。モーター回転子の周囲を取り囲むように、約10個の固定子が配置し、固定子と回転子の間でイオン流から得られるエネルギーを回転力へと変換します。Yoenkura et al. J. Bacteriol. 2011を一部改変。

法政大学生命科学部の曽和義幸専任講師は、名古屋大学理学研究科・本間道夫教授、東北大学多元物質科学研究所・石島秋彦教授、オックスフォード大学・リチャード・ベリー博士との共同研究により、自然界では水素イオン流のみをエネルギー源として利用する大腸菌べん毛モーターを、ナトリウムイオン流も同時に利用できる“ハイブリッドエンジン”のように機能させることに成功しました。本研究成果は米国科学誌「米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences)」のオンライン版で2014年2月17日 15:00(米国東部時間)に公開されます。

大腸菌を含む多くのバクテリアは、べん毛とよばれるらせん状の繊維をスクリューのように回転させて水中を泳ぎ、より良い環境へと移動します。べん毛の回転は、その根元の細胞膜に埋まっている、直径がわずか45ナノメートル(1ナノメートルは10億分の1メートル)のべん毛モーターによって駆動されます(図1)。大腸菌べん毛モーターは、毎分約2万回転とF1エンジンにも匹敵する高速駆動をしながら、瞬時に回転方向を切り替え、100%に近い効率でエネルギー変換することができる、私たちの技術では実現できない高性能なナノマシンです。

図2.ハイブリッドエネルギー型モーター
自然界にいる大腸菌は水素イオン固定子のみを持ちますが、遺伝子改変によりナトリウムイオンモーターとして機能させることが可能です。今回、水素イオン固定子とナトリウムイオン固定子の両方を同時にモーターに組み込み、水素イオン流とナトリウムイオン流を同時に使用できるハイブリッドエネルギー型モーターとして機能することを示しました。また、このモーターは周囲の環境に応じて、柔軟にパフォーマンスを制御していることが明らかとなりました。

ところが、べん毛モーターの構造をみると、意外にも人工モーターと共通性がみられます。つまり、べん毛繊維へとつながる「回転子」と、その周囲を取り囲むように配置した複数個の「固定子」から構成されています。ただ、回転のためのエネルギー源は電流(電子の流れ)ではなく、水素イオンまたはナトリウムイオンの流れです。大腸菌のべん毛モーターは水素イオンのみを通過させる固定子(MotAMotB)をもちます。エネルギー変換機構の鍵となる固定子に関する研究は精力的におこなわれていますが、その中でも特に興味深い成果として、大腸菌べん毛モーターの回転子と相互作用してナトリウムイオンで駆動できるように遺伝子改変された固定子(PomAPotB)がありました。

本研究では、大腸菌が本来持つ水素イオン固定子(MotAMotB)と遺伝子改変ナトリウムイオン固定子(PomAPotB)を、大腸菌べん毛モーター回転子と同時に相互作用させられるか試してみました。モーター1個の回転を観察した結果、水素イオン、ナトリウムイオンの両方のエネルギー源を利用して回転する「ハイブリッドエネルギー型モーター」として機能することが示されました(図2)。詳しい解析により、水素イオン固定子とナトリウムイオン固定子の発生する回転力特性は異なるものの、それらが同時に相互作用する際はお互いを干渉することなく加算的に機能する、柔軟な機構を備えていることが明らかとなりました。さらに、ナトリウムイオンの濃度が高いときはナトリウムイオン固定子の方が大きな回転力を発生させ、逆にナトリウムイオンの濃度が低いときは水素イオン固定子の方が大きな回転力を発生するのですが、外環境のナトリウムイオン濃度に依存して、モーター内の固定子がダイナミックに入れ替わって再配置し、モーターの回転出力が自動的に最適化されることがわかりました。このように入力エネルギーに応じて、柔軟にシステムのパフォーマンスを最適化させる仕組みは、将来私たちが人工的なナノマシンを設計する上で、重要な知見を与えてくれるものと期待されます。

また、今回の研究では大腸菌内で機能するハイブリッドモーターを人工的に作成しましたが、自然界には複数種類の固定子をもつバクテリアが存在します。これらのバクテリアのべん毛モーターも環境に依存してモーター出力を調節しているのではないかと予想され、バクテリアの生き残り戦略を考察する上でも重要な結果と考えられます。

掲載誌情報

Proceedings of the National Academy of Sciences (米国科学アカデミー紀要)
論文タイトル: Hybrid Fuel Bacterial Flagellar Motors in Escherichia coli
著者: Yoshiyuki Sowa, Michio Homma, Akihiko Ishijima, Richard M. Berry

本件に関するお問合せ先

法政大学 生命科学部
専任講師 曽和 義幸 (ソワ ヨシユキ・本研究の責任著者になります)
TEL: 042-387-7026
E-mail: ysowa@hosei.ac.jp

名古屋大学 大学院理学研究科
教授 本間 道夫 (ホンマ ミチオ)
TEL: 052-789-2991
E-mail: g44416a@cc.nagoya-u.ac.jp

東北大学 多元物質科学研究科
教授 石島 秋彦 (イシジマ アキヒコ)
TEL: 022-217-5802
E-mail: ishijima@tagen.tohoku.ac.jp

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東北大学 多元物質科学研究所総務課総務係
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